旅限無(りょげむ)

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欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の弐拾七

2008-11-23 20:57:19 | チベットもの
■既にダラムサラでの緊急会議の議決結果が報道されているので、北京五輪が開催された時期あたりまで遡っているのは歯痒い限りですが、やはり腐っても鯛、「平和の祭典」として莫大な資金と膨大な労力を費やして開催された北京五輪には、他には変え難い意味があった事を確認するためにも、話が冗長になっても仕方がないと思います。く

8月16日、中国国家民族事務委員会の呉仕民・副主任は、08北京国際ニュースセンターで行われた記者会見で、「中国の憲法では、少数民族の人権は保障されている」と述べた。「民族の平等こそが中国政府の民族政策の基本だ」と述べ、「中国憲法では、少数民族の合法的な権利と利益を保障し、如何なる民族に対する差別や抑圧も禁止している」「少数民族は中国国民の一員として平等に扱われており、政治、経済、文化、教育等社会生活の各方面において、差別どころか様々な優遇措置を展開している。」と強調した。

■五輪大会が終盤を迎えた頃、取り敢えずはチベットやウイグルから民族問題を思い詰めて過激な行動に出る者が(表には)現われず、どうやら無事に閉幕まで持ち込めると判断した時期に、このような自信に満ちた発言が出たものと思われます。何の問題も無いのなら、チベットやウイグルなどの世界中が心配している地域の息苦しい警戒体制を解いて、大々的に大会中の北京見物が出来るようにしてくれれば良さそうなものでした。「憲法」に何が書いてあろうと、残念ながらほとんど意味が無いのが一党独裁体制の特徴で、「憲法違反だ!」と行政裁判が行われた前例があるのか?とIOCは一度も問い質したことはないはずです。

■あれこれ憲法で「禁止」されていても、憲法を一方的に制定して下げ渡している独裁政府自身は、その憲法の解釈と運用に関して絶対の権力を持っているのですから、どれほど「禁止事項」を並べても大した意味はなさそうですなあ。「中国国民の一員」という言葉には他国とは違う脅迫めいた響きがありますなあ。


さらに呉副主任は、「漢族と少数民族は、憲法や法の下に平等である。同時に少数民族は、その言語や文化、宗教の自由などが専門の規定により守られており、広い範囲にわたる自治権も有している。中国の民族区域自治制度は、少数民族の人権を守る重要な政策だ」と重ねて強調した。
2008年8月18日 Record China

■一般の人間とはまったく違う文章解釈をしてしまえるのが、官僚の名人芸の一つだそうで、日本の官僚などは句読点を魔術のように使ってバカ長い文の意味を一瞬で逆転してしまえるとか……。文字の国を自称するチャイナが保有する膨大な漢籍には、元々、句読点がまったく無かった!という歴史的事実が有ります。つまり、「分かる人には分かる」ことが前提になっていて、それが解釈の流儀を分ける原因にもなって行き、有名な「科挙」も王朝が変わる度に受験生は新しい解釈に則った答案を作らねばならなかったとか……。

■今のチャイナで「平等」がどんな意味を持っているのか?たまたま漢字という道具が共通だからと日本人が勝手な想像をして解釈すると、即座に「正しい歴史認識」に抵触する恐れがあります。それよりも「専門の規定」という一言に注目した方が良いでしょうなあ。こんな恐ろしい但し書きを挟み込んだ法律を持つ国も珍しいのではないでしょうか?共産党が独占的に少数民族の「人権を守る」という前提が問題があったらどうなるのでしょうなあ。

■そんな細かい?ことは巨大な五輪ビジネスの前には鴻毛の軽さしかないようで、北京大会は強引に成功させられたのでした。大地震に襲われた四川省でも、大規模な騒乱が起こったチベット地域でも、勿論、暴力事件が多発したウイグルでも日本のようにテレビの視聴率が面白いように上昇したはずはないのです。テレビがあっても観ない人民が国内に多数存在した事を忘れて「感動!」を売り物にしては行けません。

ソマリア沖海戦 其の弐

2008-11-23 16:44:00 | 外交・世界情勢全般
(11月)20日環球時報によると、多発するソマリアの海賊問題に絡み、中国国内で「解放軍海軍に攻撃させよ」の声が高まっている。ソマリアの海賊は7日から16日の10日間までだけで、外国船籍の5隻を乗っ取った。うち1隻は天津遠洋漁業公司の「天裕8号」で、中国人16人と日本人船長1人を含む外国人8人が乗り組んでいた。現在のところ、乗組員の様子は不明。また9月には、中国人24人を含む香港籍の貨物船が乗っ取られている。……

■海外へ打って出ようと大車輪の北京政府としましては、国際航路の安全を守る仕事でも確固とした地位を築いておきたいところでしょう。南シナ海からマラッカ海峡を抜けてインド洋に抜け、そのまま中東とアフリカへと着実に拠点を作って進出している段階ですから、自国民を救うという大義名分が生々しいうちに増強著しい人民解放軍の海軍が持つ力を世界に見せ付けておきたいでしょうなあ。インドに先を越された!と一部の熱血軍人は地団駄を踏んでいるに違いないのです。


環球時報が運営するニュースサイト「環球網」が19日に始めたアンケートによると、「中国は海軍を出動させ、海賊に打撃を与えるべきと思いますか?」との質問に、20日午後1時までに、86%が「そう思う」と回答。理由としては「国家の利益のため、軍艦を派遣して貨物船を保護せよ」、「中国は貿易大国だ。海の平和を守るため、他の国と共同で海賊を攻撃せよ」、「軍艦を出して防衛任務にあたらせることは、大国である中国の責任」などの意見が寄せられた。

■お手盛りヤラセの臭いがしないでもないアンケート調査ですが、「貿易大国」「大国」という自負が盛り上がっている様子が分かって興味深いですなあ。きっと日本は「貿易小国」なのでしょう。そのうち人民解放軍の軍艦にお世話になる日が来るのでしょうか?得意の後方支援や給油などで恩返しなどして……。


一方、反対意見には、「海賊多発の原因は、長期的な内戦がもたらしたソマリアの貧困。中国は経済援助に力を入れるべきだ」、「軍艦を出したら、いわゆる中国脅威論が強まる」などがある。

■86%が賛成なのですから、このような冷静な自重を促す声は少数意見、つまりお飾りみたいな言い訳の役目を果たしているようです。原因とされる「長期的な内戦」の、そのまた原因は欧州列強による植民地政策と米ソ冷戦時代の陣取り合戦なのは明らかですから、慎重意見の中にもしっかり米国とロシアに対する批判が埋め込まれているわけです。海賊を掃討するのに「脅威論」が湧き起こるほど強力な武器を使って徹底的な殺戮戦を展開すると前提して反対しているのなら、そちらの方がずっと恐ろしいかも?


中国社会科学院で国際問題が専門の楊丹志氏は、「中国海軍による攻撃を望む考えは理解できる」としながらも、「単純な思考は好ましくない」と主張。「中国のような新興の大国は、一挙一動が国際的に大きな注目を集める。国際問題で中国は、慎重に振る舞わなければならない」との考えを示した。

■慎重に振舞っている間に、何処かの国が突出した行動に出ること、その後、国際世論が武力行使を求めるようになること、ある種の共同作戦が決まれば、その時こそ存分に活躍すれば良いという見通しがあるのでしょうなあ。戦費については、いつものように日本が担当でしょうか?戦後補償の代わりにあれこれと経済援助を要求し、誰が埋めたか分からない毒ガス処理でも莫大な資金が転がり込み、そろそろ環境問題での協力要請に切り替えようかという被援助政策の流れのようですから、米国の流儀に則って「対テロ戦争」に実戦で参加して燃料と費用は日本に求めるのも悪くないかも?米国枠とは別に「思いやり予算」を要求して来たらどうしましょう?


ソマリアの海賊問題では、インド海軍が18日に交戦し1隻を撃沈と発表。韓国は駆逐艦派遣の方針。国連安全保障理事会は20日、同問題で公開会議を行う。
11月20日 サーチナ

■すっかり蚊帳の外に置かれた日本では、「田母神論文」ひとつ扱えない国会のレベルですから、また訳の分からない神学論争に時間を取られて身動きが取れず、気が付いたら「奉加帳」と「請求書」の束が送りつけられる悪夢が再現されるのでしょうか?

ソマリア沖海戦 其の壱

2008-11-23 00:58:31 | 外交・世界情勢全般
■麻生コロコロ首相と小沢クラッシャー民主党代表とが喧嘩ばかりしていて、解散総選挙も第二次補正予算も先送りになって永田町は既に「来年の話」が飛び交っているようですから、何処かで鬼たちが大笑いしているのでしょうなあ。自動車産業から1万人を越える失業者があふれ出すと言われている時に、最後のセーフティ・ネットとなるはずの社会保障制度は穴だらけ、医療の現場は医師不足、何とか外交では日米同盟を機軸としてせっせとインド洋上での給油活動は続けている日本であります。

■しかし、そのインド洋の西端では新たな「非対称戦争」が勃発寸前!灼熱のインド洋で海上自衛隊の皆さんが命懸けの給油活動をしていれば、日米関係は磐石になり日本の生命線のシーレーンも守れるのだ!と政府与党は言っていたはずなのですが……。


インドのPTI通信によると、同国海軍は19日、ソマリア沖のアデン湾で18日夜にインドのフリゲート艦が海賊の「母船」とみられる船を交戦の末、撃沈したと発表した。……臨検のため、この船に停止を命じたが、船はこれを無視して同艦に銃撃を加えた。同艦が応戦したところ、船で爆発が起きたという。インドは同海域での海賊被害多発を受け、10月に特殊部隊が乗り組んだ同艦を派遣していた。
11月19日 時事通信

■北朝鮮の不審船と日本の海上保安庁の巡視船が交戦した映像が蘇りますが、インドの船は立派な海軍の軍艦でありますから、これはもう戦争です。「インド洋」という名前が付いているくらいですから、インド海軍も気合が入っているのかも?それに引き換え「日本海」では日本の海自も保安庁も実に奥ゆかしいですなあ。冗談はともかく、内乱続きだったアフリカの角、ソマリアで海賊商売が大人気!丸腰の船を乗っ取って乗員の命と積荷と船体を丸ごと「人質」に取っての拉致・誘拐・恐喝ですから、相手になるには正規の軍隊に頼るしかありません。

■こういう話になりますと、国際社会で日本の肩身が途端に狭くなります。苦し紛れに与党内から「もっと沢山給油しよう」などと言い出す変な政治家が出て来るのが心配です。


欧州連合(EU)議長国のフランスのモラン国防相は19日、来月8日からインド洋やアデン湾にEUの軍艦船を派遣すると語った。国防相によると、作戦は「3カ月の予定」で、フランスをはじめEU加盟国から5、6隻の艦船が参加する。派遣艦船の役割は、
(1)要請による商船の護衛
(2)世界食糧計画(WFP)によるソマリアへの食料品輸送船の護衛
(3)偵察機を伴う海上パトロールの強化だ。
11月20日 産経新聞

■この記事の題名が「12月8日に開戦」となっておりまして、真珠湾攻撃の日付と引っ掛けたのでしょうが、あまり上等なジョークとも思えません「護衛」と「偵察」から何処まで事態が発展して行くことやら……。海賊行為をしているのがソマリア政府だったら話は単純なのですが、相手は食い詰め浪人ならぬ貧困から脱した素人集団とのことで、テロ集団とも違う野蛮な商売の旨味を知って俄かに急増中だとか……。伝統的な山賊・海賊ならば、重要な交易路を隣接する場所を根拠地にして縄張りを設定、一種の通行税を取り立てる代わりに交通の安全を保障するのが普通なのですが、人質を取って法外な身代金を要求するというのは単なる海の強盗集団であります。しかし、そんな事をして稼がないと生きて行けない状況に追い込んだ責任を負うべき国もあるのが現実で、取り合えずは航路の安全を確保するのが喫緊の課題でしょうが、その後はイラクやアフガンと同様に平常の生活が成り立つ国づくりを援助しなければならないのでしょうなあ。

取り敢えずは容疑者が出頭 

2008-11-23 00:54:56 | 社会問題・事件
■TBSテレビの『ニュースキャスター』という番組をスッポカしてフジテレビの教育問題を考える生放送の特別番組に出ていたビートたけしさん。そこには公務で忙しくて国会の喚問にも行けない石原東京都知事も顔を出していたそうですが、TBSの方では危機管理のエキスパートの佐々淳行さんをゲストに迎えて元事務次官が連続して襲撃された事件を取り上げて、あれこれと推理をしている時に「自称犯人が出頭」との第一報が入りました。教育問題も大事ですが、速報性で勝負するテレビとしては、土曜の夜に報道娯楽番組を残しておいたTBSは思わぬ拾い物をしたという事になりそうです。

「次官を刺した」。元厚生次官ら連続殺傷事件は22日午後9時40分すぎ、東京・霞が関の警視庁に軽乗用車で乗り付けた男が、取り囲んだ警察官にそう言い放ったことで新たな局面を迎えた。ピンク色の軽自動車は川越ナンバーのレンタカー。軽自動車は警視庁の正面玄関前の歩道に乗り上げる形で停車。……

■秋葉原で発生した無差別ナイフ殺人事件と同じく、自称犯人が使っていたのもレンタカー。こんな所にも日本社会から自家用車が減少していることが感じられます。それにしても、犯行現場で目撃された黒か濃紺のワンボックス車は何処に行ったのでしょう?近所の人が耳にしたスライド式ドアの閉まる音というのは、何処から聞こえて来たのやら。相変わらずテレビを筆頭にマスコミが情報を混乱させているような感じですなあ。意味も無く現場に近づいて、玉石混淆の「情報」を大急ぎで掻き集め、スタジオでは専門家と称する人が引っ張り出されてその場で「推理」を披露するという手法は、事件の解決よりも徒に恐怖を煽って社会生活を混乱させるだけのような気がします。


車両左側のドアが2つとも開いた状態。後部座席には粘着テープで閉じられた段ボール箱2箱が置かれていた。……車にはすぐにブルーシートがかけられ、周囲から中がうかがえない状態に。鑑識資材を持った捜査員が車内に入り、ライトで中を照らすなどしながら鑑識活動を始めた。……署から出てきた警備部幹部は「今続けてる警備は継続する。犯人かどうかは全く分からない」と話した。

■もしも政治的なテロ集団が動いているとしたら、わざわざ週末の警視庁に車で乗り付けたのは陽動作戦で、すわっと報道陣の目と耳が集中して警備陣も浮き足立った隙に第三の事件を起こす可能性は有りますから、これですべてが解決したなどとは言えないでしょう。血の着いたナイフやスニーカーなどを持参して年齢も身長も一命を取り留めた被害者の証言と一致しているようですが、それら全部が周到に用意された物かも知れません。


さいたま市と東京都中野区で3人が死傷した連続殺傷事件は、犯人が宅配業者を装うなど用意周到に自宅内に侵入。傷の状況から犯人が凶器の刃物を振り下ろして襲撃し、被害者の肋骨が砕けるなど残忍な犯行だった。両事件とも片刃の短刀のような形状の同種の刃物が使われた可能性が高い。刃こぼれせず、刃先も折れずに肋骨を砕いていることから、硬い材質の極めて殺傷能力の高い刃物とみられることから、警視庁と埼玉県警は強い殺意を裏付けるものとみている。

■秋葉原で犯人が振り回した道具も、専門店で買い揃えた特殊なナイフでしたから、その中の殺傷力が強い両刃ナイフは販売禁止になったようですが、その前に売られてしまった分は回収不能ですから、実際に使用された様子や威力を報道から知って妙に納得している所持者も居るでしょうなあ。因みに今の厚労省の大臣は富士山麓に持っている別荘に、異様な数の各種サバイバルナイフのコレクションを持っていたはずです。退職しているとは言え、かつての事務次官がナイフで襲われるというのは、何かの因縁でしょうか?さすがにお喋りな舛添大臣も、凶器に関して薀蓄を垂れるのは控えているようであります。


東京・霞が関の厚生労働省。犯人出頭との一報に、大臣官房のある幹部は「テレビで知った。驚いた。ただ犯人と決まったわけではないので、捜査の推移を見守りたい」と緊張した声で語った。庁舎は休日とあって職員はまばら。事件について対応している人事担当の幹部の電話は話し中のままで、幹部同士で連絡を取っているようだった。
11月22日 産経新聞

■捜査本部が置かれている麹町警察署でもなく、埼玉県の浦和警察署でもなく、最寄の交番でもなく警視庁に名乗り出るというのは、ちょっと病的な自己顕示欲の持ち主か?との推測もできそうですが、単に元官僚トップを狙った者としては警視庁か警察庁に行かないとバランスが取れないと考えただけかも?それにしましても、出頭して来た男は「コイズミ」と名乗っているそうですが、ターゲットにされた二人の官僚は小泉厚生大臣と深いつながりが有ったそうですから、この男が真犯人で本名がその通りだったとしたら、これまた奇怪な偶然と申せましょうか?

■官僚や社会保険庁の職員を傷つけても、消えた年金は復活などしませんし、グリーンピアなどで浪費された積み立て金も戻りません。年金問題は担当大臣さえも頭を抱えてしまうほど複雑で奇妙な国家犯罪ですから、制度設計の段階からトボケタ運用段階まで、詳細に時系列を追って調査しなければ全容の解明も、問題の原因も簡単には分からないようです。官僚が悪いのなら、その時の大臣も悪いでしょうし、その大臣を任命した総理大臣はもっと悪いはずです。グリーンピアの廃墟があるところは歴代厚生相の地元が多いという話もありますし、勿論、民主党の支持団体とされる自治労が続けていたサボタージュは言語道断ですから、政局や選挙とも切り離して考えねばなりません。さてさて、明日は秋場所の千秋楽、相撲界の黒い霧がどうなるのか?などという話より、マスコミが大喜びする大ネタが転がり込んでさぞや現場は活気に満ちているのでしょうなあ。

■『週刊ポスト』の最新号が「犯人の犯行声明」として引用しているウェブサイトに掲載されていた短い書き込みは本物だったのか?それとも毎日新聞の誤報と似たような勘違いだったのか?その辺も数日中に明らかになる可能性がありますなあ。毎日、頑張っておられる宅配業者の皆さんはトバッチリを受けて大変な迷惑を蒙っておられるとか……。怪しからん扇情的な映像作品などでも、さんざん安直に利用されている「宅配業者に成り済まし」という陳腐な設定にも迷惑を受けているでしょうし、極稀に起こるこうした凶悪犯罪にも使われるのも、裏を返せばそれだけ(郵便局とは違って)宅配サービスが生活に欠かせない物として定着している証拠なのですから、これからも誇りを持って仕事に励んで欲しいものです。
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欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の弐拾六

2008-11-23 00:05:28 | チベットもの
■チベット関係の「サイバーテロ」を粉砕した後で、IOCと約束していたチベット亡命政府の代表との会談が行われておりました。まあ、「サイバーテロ」を仕掛けて来るような失礼千万な連中の言う事など最初から聞く耳持たぬ!という伏線にもなっていたのでしょう。

6日の新華社通信によると、中国共産党でチベット問題を担当する杜青林・統一戦線工作部部長は、北京でチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の代理人ロディ・ギャリ氏らと会談した。「チベットの独立、半独立、形を変えた独立は認めない」と述べ、ダライ・ラマが求める「高度の自治」を受け入れない立場を明確にした。

■いろいろと修飾句を付けた「独立」が並べられていますが、ダライ・ラマ法王が求めている「高度の自治」と、どの「独立」概念が一致しているのか、さっぱり分かりません。チベット自治区が既に存在しているのですから「自治」という言葉には問題はなさそうです。従って「高度の」という修飾句に「独立」の意味が含まれていると判断されていることになります。北京語でもチベット語でも英語でも、そんな解釈は無理なのですが……。


……双方の協議は5日まで開かれた。杜部長はチベット統治について「民族による地域自治制度を堅持する」とし、香港やマカオのような「1国2制度」や連邦制、国家連合は行わないと強調。さらに「ダライ・ラマは、政治的主張を抜本的に正さなければならない」と要求。中国はダライ・ラマが求めるチベット自治区と周辺地域を含めた「大チベット」や独自憲法の制定を独立要求とみなし、拒否している。
2008年11月7日 毎日新聞

■「大チベット」に関しては、拙著『チベ坊』にも簡単に書きましたが、チベット仏教の広がりを考えれば「信仰の自由」だけでなく、文化や歴史の尊重という意味でも、「高度の自治」が求められる範囲は北京政府が切り取った現在のチベット自治区の境界線を越えます。「独自憲法」の問題は、確かに独立要求とも取れますが、中華人民共和国憲法が一党独裁・共産党無謬説で固められている限り、そっくり受け入れるわけには行かない事情があります。半世紀も前の毛沢東時代に締結された『17条協約』を遵守し、それと矛盾しないように現行憲法を修正して貰えればよいのですが……。

■今の中華人民共和国憲法でも、第二章『公民の基本的な権利と義務』に「言論、出版、集会、団体の形成、行進、デモ、宗教、の自由」が記載されているのですが、例えば「集会・行進・デモ」の場合、五輪大会の開催中に北京市内の3箇所が「集会デモ」の専用広場に指定され、恐る恐る現われた申請者たちのほとんどが却下され、許可された3件の集会も、実際には行われなかったとか……。

■第三章「国家機構」の第六節には「民族自治と地方自治機関」の規定も有ります。しかし、美しい文言で飾られた条文と実態とが著しく乖離しているのが問題なのでしょうなあ。そもそも、 第一章の「総則」に「中華人民共和国は社会主義国家を目指す……社会主義を破壊するようないかなる組織や集団も禁止する」と書かれているのに、市場経済を導入したエライ人も反社会主義的にコネと利権を濫用して巨万の富を得た人も、一度も憲法違反に問われていないのは実に不思議な話です。

■法は運用によって何でも出来るものなのでしょうが、あまり無茶な運用ばかりしていると非常に危険なことになりますぞ。かつてソビエト連邦には『スターリン憲法』という世界で最も民主的で人権尊重を謳い上げた素晴らしい「作品」が有りましたが、それを制定した本人が一度も守らなかったという恥ずかしい歴史が有りましたなあ。中ソ対決の切っ掛けは、その憲法を作って一度も守らなかった人が死去した後、フルシチョフが「批判」した!と起こった毛沢東が仕掛けた内輪揉めでした。憲法を守らないような国でも五輪大会は開催されるという悪い先例が出来てしまったのは、実に残念なことであります。