旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

最も身近な知的遺産 其の参

2008-11-09 17:51:59 | 日本語
関東地方のある図書館。半年ほど前、館内を巡回中の男性職員は、料理雑誌を持ち歩いている中高年の女性が、出て行こうとしているのを見つけた。館外で呼び止めると、女性は「本が勝手に落ちてバッグに入った」。そして、「盗んだという証拠はどこにある」と怒り出し、職員が謝罪すると、ようやく雑誌を返した。この職員は「持ち出しを指摘されても、平気で居直るケースが増えてきた」と困惑を隠さない。

■スーパーマーケットでの万引きは、捕まえてみれば中高年の女性が多いという話もありましたなあ。ここに出て来る盗み方はスーパーでの万引きとそっくりなのは単なる偶然なのでしょうか?盗んだ本を見ながら、盗んだ食材で作った料理がたまらなく美味しいのなら、こんなに悲しい食生活はありませんなあ。罵声を浴びせられた図書館員の方は警察官でもないのに収蔵物の警備をしなければならないとは、実にご苦労様なことであります。


東京都港区や鳥取市、福岡市などは、貸し出し手続きをしていない本が通過すると警報が鳴る防犯ゲートを導入。宇都宮市の図書館では2004年度に年間6900冊の本が行方不明になったが、05年度に防犯ゲートを設置すると、被害は減り始め、昨年度は1424冊にまで減少した。ただ、同図書館の職員は「市の予算が、新しい本の購入ではなく、防犯費用に回ってしまうのは非常に残念」とつぶやく。

■防犯ゲートを導入しても盗み出す馬鹿者がいるのなら、国際空港並の厳戒体制を敷かねばなりませんなあ。稀少本を図書館から盗み出してネット上で売っているような人物も居そうな気がしますし、ベストセラーの新刊本を抜き出して新古書店に持ち込んで小遣い稼ぎしているような人も居そうですなあ。


雑誌の最新号が持ち去りのターゲットにされやすいため、都内のある区立図書館は昨年秋以降、若い女性向けのファッション雑誌の最新号を書架に置かず、カウンターで管理している。持参してきたカバンに本を入れて持ち出せないよう、手荷物の持ち込みを禁止した図書館も。しかし、関東の図書館の館長は「手荷物を禁止すると、赤ちゃんのいる利用者はおむつを持ち込めなくなる」とためらいもみせ、「自分さえ良ければという考えが、多くの利用者の自由を奪っている」と指摘している。
2008年11月9日 読売新聞

■「若い女性向け」という所が気になりますなあ。先に出ていたのは中高年の婦人で、今度は若い女性ですか?最新号のファッション雑誌を買い揃える義務が図書館にあるのかどうか、これも考え直して方が良いかも知れませんぞ。本屋の棚に並ぶ雑誌類の多さを考えれば、あれもこれもと目を引かれる思いに駆られるのも分かりますし、グラビア頁が多い雑誌となれば値段も高い!毎月まとめて買っていたら出費が嵩むし読み終わった後の始末も大変だ!それが無料で利用できる図書館に並んでいれば……。

■「世界遺産」なるものが指定されるようになりまして、観光産業やテレビ界では大喜びしている模様で、関連する出版物も出回っているようです。しかし、「遺産」の意味も分からず押し寄せては「遺産」を傷つけたりゴミを散らかしたりする困った人が多いとも聞きます。歴史的価値が分からない人を呼び寄せるだけなら「世界遺産」などはさっさと廃止した方が良さそうです。身近にあって便利な公共施設にも世界遺産と同じような文化的な価値がある事を学び直さねばならないようです。しかし、小中学生ならば授業で教えられますが、中高年には誰が教えたらよいのやら……。補充が不可能な貴重な本を盗む罪を思い知って貰うには、やっぱり警察沙汰にして一罰百戒の効果を狙うしかないのでしょうか?公共図書館にも防犯カメラが並ぶ日も近いのかも知れません。しかし、それはとても恥ずかしい事であります。
-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------

最も身近な知的遺産 其の弐

2008-11-09 17:51:34 | 日本語
……複数の自治体で、カバーや表紙から本の中身が引きはがされて持ち去られる「中抜け被害」が確認された。都内のある図書館では3年ほど前から目立ち始め、多い時で月に2~3件被害がある。旅行のガイドブックや写真集、写真付きの実用書などが狙われやすいという。本の表紙やカバーは書架に残されているため、年に1回行われる蔵書の一斉点検まで気が付かないことも多い。被害にあった図書館の司書は、「防犯対策が遅れがちになる」と話す。

■図書館と出版社との間で『ハリー・ポッター』騒ぎが起こったことがありましたなあ。どんどん流行の周期が短くなっている上に出版不況の世の中ですから、本物のベストセラーが出現したら出版業界と書店にとっては干天の慈雨!となるはずが、そのベストセラー本を求める購入希望カードが各地の図書館に集中豪雨のように寄せられ、利用者の意向に沿うべく5冊も10冊も購入することになると、本を売る側からしますと「売れたはずの本」が売れなくなることになりますから、営業妨害だ!と訴訟問題に発展しそうだったとか……。

■被害に遭っているガイド本や写真集などは、公共図書館が収蔵するのが相応しいかどうか?少々、疑問に思えないこともありませんなあ。どんな種類の写真集かは存じませんが、気に入った写真なら身近に置いておきたくなるでしょうし、ガイド本となればもっともっと身近に置かねばならないでしょう。図書館としては利用者が借り出してコピーを取る事を前提にしているのだとしたら、これはこれで肖像権や知的所有権の問題になりそうです。出版物なら何でも、利用者が求める物なら何でも収蔵しようとするのが良いのか?図書館なりの考えと姿勢に基づいて運営して行くべきなのか?漫画大好きの麻生総理が登場したり、アニメ文化の評価も高まる時代ですから、コミックやアニメの類も収蔵するようになるのでしょうか?

■新しい物と古い物とが調和して整えられているのが図書館の理想なのでしょうから、末永く読み継がれていく本は大事にしたいものです。


……関東の図書館では、近くの商店の前の路上に、約80冊が入った段ボール箱2箱が放置されていた。東北の図書館では周辺のコンビニエンスストアのゴミ箱に、四国の図書館では駅のゴミ箱に、それぞれ蔵書が捨てられているのが清掃員らによって発見された。昨年6月には九州の公園内で半分焼けこげになった図書も……九州の図書館の夜間返却箱に昨年末、貸し出し手続きがされていない約400冊が戻されたこともあった。そのうち100冊はほこりまみれで傷みが激しかったという。

■愚か者の万引き犯罪で町の本屋さんが廃業に追い込まれる御時勢ですから、返すだけマシと考えるべきなのか?拙著『チベ坊』も全国の300以上の公共図書館と大学図書館に収めて頂いておりまして、時々、ネット上で貸し出し状況や所蔵状態を確認しておりますので、こうして行方不明になってしまう可哀想な蔵書の中に、少なくとも3冊の拙著が含まれている事を確認しております。借りて頂いて何度も読み返そうと心ならずも盗んでしまったのか?内容が気に入らないと判断した強硬派が勝手に廃棄処分にしてしまったのかは分かりませんが、気に入って頂けたのなら御購入して貰いたいのが著者としての願いですし、勝手に廃棄などされたら補充しようにも予算のやり繰りに苦労している各図書館では大きな負担になってしまうでしょう。残念な事であります。


……館内の巡回を強化したり、防犯ゲートを設置したりしたところもあった。ただ、予算や人員に限りがあり、防犯対策をとることができずにいる自治体も多かった。……防犯対策を余儀なくされる自治体からは、「警報装置付きのゲートを設置する金があれば、本を買いたい」「警戒を強めるほど、図書館が市民にとって居心地の悪い場所になる」といった声も上がっている。

■盗っ人の番をしなければならない図書館というのも滑稽で悲しいものですなあ。名作の中には『怪盗ルパン』に始まる泥棒小説なども有りますが、その本を図書館から盗んでは行けません。人生の悩みに答えるような本ならば、きっと「善行」を勧める内容が書かれているはずです。多くの人に読んで貰おうと書き手は必死に努力しておりますし、図書館も同じ気持ちで本を選んで管理しているのですから、そうした多くの善意がつながっている場所である事を考えて、愚かな犯罪は止めて欲しいものです。

最も身近な知的遺産 其の壱

2008-11-09 17:51:00 | 日本語
■統計によりますと、毎日、日本の何処かで引ったくり犯罪が150件は起きているそうです。スクーターなどで歩行者の手提げ鞄や自転車の籠が狙われるそうですが、置き引きや万引きなども加えれば数百件になるのでしょう。悪事を働く馬鹿者の心根と謂れの無い不幸に見舞われる被害者のショックと悲しみと悔しさは、被害額の大小に関わらず一生忘れられないほどのものでしょう。悪事の中でも最大規模の被害額になるのが詐欺犯罪でしょうが、便利な携帯電話やエクスパックを悪用する「振り込め詐欺」が盗み取る金額は小室哲也クンの生涯所得の何倍にもなっているようですから、人の物を盗むことを楽しむ輩が恐ろしい勢いで増えているのは間違いありません。ご用心、ご用心。

2007年度に全国主要都市の公立図書館で行方不明となった本が計約28万4000冊にのぼり、被害額は約4億1000万円と試算されることが読売新聞の調査で分かった。大半が無断で持ち出されたとみられ、本の表紙だけ残して中身を抜き取る手口が目立つ。警報装置付きの防犯ゲートを設置した図書館もあるが、多くの自治体が「財政事情が厳しく、有効な対策をとれない」と訴えている。

■昔の「貸し本屋」からレコード、ビデオ、CD、DVDへとレンタル産業は目覚ましい発展をし続ける一方で、無料で利用できる公共施設の図書館も教育と文化生活のために頑張ってくれているのは心強い限りであります。しかし、公共図書館はすぐれて地方自治体の管理下に運営されている施設なので、それぞれの図書館の実態を見れば、所管の自治体がどの程度の文化・教養レベルにあるのかが分かってしまう面もありまして、国から交付される図書費が好き勝手に抜き取られてハコ物に化けてしまう悲しい所も多いとか……。その反対に幼児から高齢者までを対象とした様々なイベント企画にも熱心で、地元の皆さんに教養と情報を提供すべく努力を重ねて教育行政の一翼を担っている立派な図書館もあるというわけで、こうした地域間格差の方が、結果を公開するかどうかで空疎な論争を起こしている学力テストなどよりも遥かに重大な問題だと思うのですが……。


道府県庁所在地と政令市、東京都と23区の計74都市区を対象に、公立の図書館(計約570館)で07年度に行方不明となった本の冊数や被害金額などを尋ねた。……69都市区から回答があり、計28万4421冊。都内4区と横浜市や川崎市、名古屋市の計7市区では、それぞれ年間1万冊以上の行方がわからなくなっており、大都市圏の被害が顕著だった。回答のあった都内22区を合計すると計14万1221冊で、全体の半分近くを占めた。

■日本国民の1割が東京都民だそうですから、消えた図書の5割が集中するというのは多過ぎるでしょうなあ。公共交通が発達している上に人口も密集しているためにネットワーク化された多くの分館を配置している都内の図書館ですから、徒歩や自転車で気軽に立ち寄れるのですから、分母となる利用者の数が圧倒的に多いのでしょう。そこに一定比率の不心得者が紛れ込めば、人口比率の5倍に当たる図書が紛失してしまうのも理解はできます。多くの地方都市では図書館に出向くのに1日がかりになってしまうような所も多いでしょうし、下手をしたら日帰りは難しい!などという恐ろしい地域もありそうです。専用自動車での巡回サービスは有るでしょうが、それがどれほどの利便性を確保しているのかは分かりません。


被害金額については64都市区から回答があり、本を購入した際の価格などから試算した結果、計4億1071万円に達した。年間1000万円以上の被害があった自治体は12市区。

■日本中から書店が消えつつある大きな原因が「万引き」による被害だという話があります。商売物を平気で盗んで行くような不心得物なら、無料で利用できる公共図書館から同様の手口で本を盗み出すのは簡単なことなのでしょう。所有権も公共心も有ったものではありませんなあ。