旅限無(りょげむ)

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金賢姫の猿轡 其の弐

2008-11-26 22:37:31 | 外交・情勢(アジア)
これまで彼女の住所は北朝鮮による報復テロなどの危険性から秘密になっていたが、テレビは情報機関の協力で自宅に押しかけ撮影までしたため移転を余儀なくされた。また情報機関は”海外移民”まで勧めたという。書簡は、謀略説の最大の狙いは「テロ作戦は金正日総書記の指示」とした彼女の供述をひっくり返すことだったとし、テレビ制作陣は彼女を出演させ彼女が「良心宣言」をすることを画策したという。

■やり方は違っても、北も南も安らかには暮らせない国という点では同じだと思ったでしょうなあ。一服盛られて意識が朦朧となった状態で巧みな誘導尋問でもされたら、大変な事になっていたでしょうなあ。韓国のテレビも恐ろしいことをするものです。日本の昼メロを真似しているくらいなら可愛いものですが、生々しい政治的な謀略に堂々と使われるというのは改善の余地が大いにありますなあ。


国家情報院に対する不満、批判としては、盧武鉉政権時代の政治的な過去否定作業の中で、1987年のKAL機事件捜査を担当した前身の国家安全企画部に対する否定的見方が強く、親北風潮に便乗し謀略説にき然と対応していないとしている。彼女は田口八重子さんに関連し「彼女が残してきた幼い2人の子供に会いたいと涙ながらに語っていた姿を思いだします。成人になった息子の様子を日本のテレビで見ましたが大きな目がお母さんに似ています。会ってお母さんの話をしてあげられない私の現実が残念です」と記している。
2008年11月25日 産経ニュース

■盧武鉉政権時代の裏側については、間も無く金大中時代とセットになった裏話が暴露され始めると思われますが、もともと貧困家庭で育ったと言われながら大学生時代から金回りが良かったとか、弁護士になるまでの生活費を負担したのが誰なのか分からないとか、いろいろと噂があった人ですから、熱狂的な支持を受けて大統領に就任した割には、急速に支持者の熱が醒めて政界全体が混乱する迷走が続きましたなあ。

■大統領が引退すると必ず一族郎党が逮捕され、御本人は死刑判決を受けた後に新大統領からの恩赦で露命をつなぐという儀式が恒例となっていた韓国でしたが、金大中大統領の代からはこの伝統が途切れているようです。自分を絶対に逮捕しない子分を後継者にしたんだ!という話もありましたが、金賢姫が自分の言葉で語り出したのが本当なら、前政権の暗部がまとめて告発される時が近いという事かも知れませんなあ。
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金賢姫の猿轡 其の壱

2008-11-26 22:37:00 | 外交・情勢(アジア)
■世に謀略説は数多く、たまにその種の本を手に取ると案外と楽しめるものであります。しかし、合間には必ず解毒作用のある良質なノンフィクションを読むのを欠かしては行けません。謀略説には必ず論理の飛躍と都合の悪い事実を無視するか強引に曲解する手法が常用されるので、削除された事実や一方的な事実解釈を別の角度から検討する作業が必要になるわけです。中には個人や団体を悪役だと決め付けて、何もかも悪い事が起こったらその「裏」にはこの種の力が働いているに違いない!と竹を割ったようにすっきりストーリーが組み立てられている話も多いようです。こうした単純な謀略説は悪役とされる対象と熱心に主張している側との関係を見れば、単純な敵対関係が見えて来るものです。

■それでも巨大資本を独占的に動かして世界を混乱させている企業やら、それと結託しているのか操られているのか分からないような国家も存在しているのは事実で、そこに特殊なイデオロギーや宗教が絡んでいる場合もあるでしょう。『ダヴィンチ・コード』などという安直な陰謀ネタの寄せ集め本が大いに売れるのも、複雑過ぎる社会構造を簡単に説明して欲しいという気分が世に溢れていることの証拠なのでしょうなあ。


北朝鮮の女性元工作員で大韓航空機爆破テロ事件の犯人・金賢姫・元死刑囚が、親北・左翼的だった盧武鉉前政権時代、情報機関の協力の下でテレビ各局などが繰り広げた”KAL機事件謀略説”に対し抗議と怒りの書簡を発表し話題になっている。書簡は人権団体のイ・ドンボク北韓民主化フォーラム代表に送られてきたもので、金賢姫の対外的な訴えは初めてだ。

■世間には「人権団体」を自称する組織が掃いて捨てるほどあるのですが、誰の人権を何のために守るのかによって団体の性格は大きく変わります。韓国には「金大中拉致事件」を起こしたKCIAという筋金入りの諜報工作機関が存在していたのは事実で、北朝鮮も爆破工作が大成功!した後に韓国諜報機関による「自作自演」を言い立てていたのでした。


書簡は彼女が北朝鮮で受けた工作員教育の際、日本語を教えてもらったという田口八重子さん(北朝鮮では李恩恵)について「彼女の存在と彼女が拉致日本人だったことは北朝鮮も認めているではないか」とし、謀略説とそれに便乗した政府機関、親北・左派勢力のでたらめさをあらためて非難している。

■最近亡くなった筑紫哲也さんは、韓国か米国かは存じませんが北朝鮮以外の国が仕掛けた謀略だと長い間信じていた節がありますし、拉致犯罪に関しては将軍様の自白を聞くまでは信じていなかったことを示す映像が残っているはずで。生放送番組の怖さと申せましょう。勿論、追悼番組などではそんな映像は使われません。そもそも、「地上の楽園」という悪質な宣伝こそ最大の謀略だったのですが、日本は政府も大きかった野党も、知ってか知らずかウマウマとその宣伝に乗ったのでした。

■金正日将軍様が小泉訪朝の際に「拉致はやった」と自白するまで、多くの日本人ジャーナリストが程度の差こそあれ謀略説を信じていたのは確かです。新聞やテレビが拉致被害者の安否情報をそっちのけで「拉致を認めた!」ことを大きく取り上げていたのが印象に強く残っております。


謀略説というのは「事件は韓国当局がデッチ上げた自作自演で北朝鮮は関係ない。金賢姫はニセ者」というもので事件当時、北朝鮮当局や在日朝鮮総連、日本の親北・左翼系などによって流布された。国際的には「北朝鮮のいつものでたらめ宣伝」としてほとんど相手にされなかったが、社会的に親北・左派勢力が幅を利かした前政権時代になって「過去史真相究明委員会」など政府機関やマスコミなどで大まじめに取り上げられ、執拗に”金賢姫追及”が行われた。

■日本でもこの種の謀略説は広まっていたのですから、現地では凄まじいことになっていたのは想像できます。たまたま、当時はインターネットが発達する前だったのが幸いしたのでしょう。元テロリストで元死刑囚となれば、ちょっと有名になった芸能人の比ではなく、世界で最も誹謗中傷用語が豊富だとされる韓国語でネットはお祭騒ぎが続いたことでしょうなあ。それが新聞・雑誌の活字にまで流れ出して緊急出版!の嵐を呼び、それらを扇情的にまとめて増幅するテレビが拍車を掛ければ、誰でも追い詰められてしまうでしょう。


金賢姫がとくに問題にしているのは、確実な捜査結果や彼女の自供内容は紹介せず「金賢姫とは何者か」「16年間の疑惑と真実」「金賢姫の疑問の足跡」など題して一方的に謀略論をあおったテレビ各社。しかも彼女を管理していた情報機関の国家情報院は、偏向報道に利用されることを知りながら彼女に対しテレビ出演やインタビューをしきりに勧めたという。

■日本語に訳された数点の懺悔録や回想録は誰かに強要されたものではなく、生活費を稼ぐための手段だったのかも知れません。当時は日本のテレビにも多少の品性と遠慮深さがあったのか、彼女を日本に引っ張ってバラエティ番組、グルメ番組、温泉紹介番組などに出演させるような事はしませんでしたが、それも韓国側の偏向が影響していただけだったのかも知れませんなあ。拉致問題を解決する為に世論が一挙に盛り上がらなかったのも、日本側にも共鳴する人達がたくさん居たからなのでしょうか?

ソマリア沖海戦 其の六

2008-11-26 09:35:03 | 外交・世界情勢全般
■金融危機への対応を話し合うのが主要課題だったAPECの議題にさえも含まれた海賊問題でしたが、バブル崩壊の(失敗)体験を恥も忘れて得々と語ろうと勇んで出かけた麻生コロコロ首相でしたが、殊、軍事関連ともなると単なるお飾り、参加することに意義がある、枯れ木も山の賑わい状態になってしまったようです。それは素晴らしいことだ!と喜ぶ人も日本には多いのか、マスコミの取り上げ方もこの問題に関しては他人事みたいな感じで実にあっさりしたものでした。平和と水ほど命懸けで守らなければならない物だという現実がすぐ近くまで迫っているというのに……。勿論、石油と食糧も大切ですが、売買の対象にならないほど安全と水は格別に重要な物なのであります。

ソマリア近海で多発する海賊行為に、日本としての対応策を練ろうと、都内で「ソマリア沖海賊対策緊急会議」(主催・日本財団、海洋政策研究財団)が開催され、中東・欧州方面と日本を結ぶシーレーンと日本船舶の安全確保を図るため、海上自衛隊艦艇の早急な派遣などを求める提言をまとめた。……政情不安などから収入を絶たれた漁民らが武装、海賊になっており、今年9月までに、昨年1年間の約1・5倍に達する63件が発生している。……すでに、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)が船舶の護衛を実施。ロシア、マレーシアなども海軍の艦艇を派遣している。

■アフガニスタンでの対テロ戦争支援を目的とするインド洋上での給油活動も海上テロの危険に晒される危険な任務ですが、戦闘自体はアフガニスタンという内陸国で行われているので、文字通りの後方支援というイメージが保たれているようです。しかし、既にインド海軍が海賊の母船を血祭りに上げたソマリア沖となりますと、万が一、給油活動の範囲を広げて海賊退治に協力しようと法改正などを済ませたとしますと、給油艦の目の前で砲撃銃撃戦が展開される事も想定せねばなりません。その時に給油艦を護衛するために派遣されているイージス艦が身動き取れずに傍観しているようなら国際信義の上からも大問題になる可能性もあるでしょう。

■無料で給油して上げるから日本の海上自衛隊を守って下さいなどと、訳の分からない事をお願いするくらくらいなら、足手まといにならないように早々と不参加を表明しておいた方が良いかも知れませんなあ。こういう具体的な大問題が起こった時に限って、憲法9条が大好きな人達は沈黙してしまうのが気になりますなあ。海賊退治での集団的自衛権がどうしたこうしたと伝統的な?議論の堂々巡りを強いられるのは残念なことであります。


最近の状況について日本海難防止協会ロンドン事務所の若林邦芳所長は緊急会議で「海賊は身代金を奪うため人質に危害を与えなかったが、最近のケースでは、海賊側が船舶を護衛していた英軍艦艇に発砲してきた。海賊行為の質が変わりつつあり、人質の命も危うい」と指摘した。緊急会議では、ソマリア近海を通航する日本国籍船や日本人搭乗船を守るために、
(1)海上自衛隊艦艇の派遣を速やかに実施する
(2)海難救助や海賊船への立ち入り検査などのため、自衛隊法の「海上における警備行動」を発令し適切に対処する
(3)海賊船への威嚇射撃を可能にする特別法を制定する-ことを求める提言がまとめられた。
11月17日 産経ニュース

■現在の法制度で認められそうな、ぎりぎりのラインを踏まえての提案ですから、あっと言う間にまとまりますなあ。誰が書いても似たような項目しか並べられないでしょう。(1)の「速やかに」の文言には「すでに遅過ぎるけれど」という忸怩たる思いが込められているのでしょうが、マスコミから吹き出す無理を承知の理想論やら日和見先送り意見やら野党から仕掛けられる無責任な水掛け論に邪魔されて、「速やかに」派遣するのはほぼ不可能でしょう。

■(2)の「適切に対処」という玉虫色の作文技法が混入しているために、派遣された人達の手足を縛ることになるでしょう。携行する武器と自衛権発動の限界など、またまた神学論争が始まるのは必定で、下手をすると護衛艦を派遣しても良いが弾薬とミサイルは降ろして空船で行け!などと言い出す者が出て来るかも?(3)などは間接的な殺人犯罪に当たるかも知れませんぞ。「特別法」まで作っても許されるのが「威嚇射撃だけ」ならば、この決定事項は軍事機密でも何でもないのですから世界中に報道されて海賊達を大喜びさせるでしょうし、派遣される日本の艦艇は残酷な標的になってしまうことでしょう。

北朝鮮の気になる鳴動 其の弐

2008-11-26 09:34:47 | 外交・情勢(アジア)
■「将軍様御不快」の情報が広まり始めてから、米国がテロ支援国家指定を解除したにもかかわらず、北朝鮮は変に内向きになっていく傾向が見えました。それは妥協の姿勢を見せてしまった米国に対して、核兵器やミサイルを使ってもっと有利に交渉を進めたいからだと解釈されていたのですが、どうもそんな悠長な事態ではないような気配が漂い始めております。

北朝鮮は24日、韓国の開城工業団地管理委員長、同工業団地入居企業、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)あてに各1通の通知文を送り、開城観光と南北間鉄道運行の中断、開城工業団地の韓国側常駐人員の半減など、強力な通行遮断措置を来月1日から取ることを通告した。これらの措置が取られれば、南北間の交流協力事業は開城工業団地事業を除き事実上全面中断となる。

■開城観光には年間10万人が参加しているという報道もありますから、年間50万人規模の金剛山観光が中止になっているのに加えて大きな収入源を失うことを意味するでしょう。あの国が「カネなど要らん!」と言い出した時が最も危険だという話もあるようですから、心配なことです。この中で最も重大なのは「鉄道運行の中断」だと思われます。実質的に鎖国体制を布くようなものですから、閉ざした扉の向こう側で何をやっているのか非常に気になります。まあ、そうやって周囲の気を引くための芝居かも知れないのですが……。


……北朝鮮はKOTRAのキム・ジュチョル代表にあて、「各種の協力交流と経済取引などを目的に陸路で北側に出入りするあらゆる南側民間団体と企業家らの陸路通過を遮断し、経済協力と交流協力事業者の軍事境界線通過を厳格に制限・遮断する」と通告した……。また、京義線列車の運行を中止する一方、開城の南北経済協力協議事務所を閉鎖して韓国側関係者を全員撤収させ、現代峨山による開城観光も中止する立場を示した。……ただ、工業団地の入居企業に送った通知書では「中小企業の難しい状況を考慮し、開城工業団地での企業活動を特例的に保障することにした」とし、今回の措置が開城工業団地の活動を中断するものではないことを明らかにした。……北朝鮮は各企業の常駐人員と車両の現況を同日午後3時まで知らせるよう要請した。
11月24日 YONHAP NEWS

■こうして見ると、妙に「自動車」の動きに敏感になっている様子が覗えますなあ。大量に撒かれた迷惑な「将軍様御危篤!」と書いて風船に詰めて飛ばすビラに神経を尖らせているとの報道がありましたが、国内を走る自動車にもビラか、それよりも危険な物を積んで走り回っている可能性があるのかも?想像を逞しくすれば、軍隊で運転技術を習得した誰かが平和ボケの出張中の韓国人から自動車を奪って反抗的な行動をとったのかも知れませんぞ。


北東アジア最大の鉄鉱石埋蔵量を誇る北朝鮮の「茂山鉱山」(咸鏡北道茂山郡)から中国への輸出や、中国から北朝鮮へのコメの輸出が9月から中断していることが20日、分かった。複数の関係筋によると、両国間の貨物列車の往来が今月に入って途絶えていることも判明した。……茂山鉱山の推定埋蔵量は30億トンで、中国が北朝鮮から輸入する鉄鉱石の最大産地。……昨年一年間の同税関を通じた鉄鉱石輸入量は70万トン。今年は8月までに67万トンに上り、大半は茂山鉱山産だ。……年末までの輸入総量は100万トンを超すとみられていたが、関係筋によると、陸上輸送による輸入は9月以降、ピタリと止まった。……

■北朝鮮における鉄鉱石の採掘利権をチャイナが独占してしまう!と一時は大騒ぎにもなった地下資源の大規模な切り売りでしたが、それが突然止まるとなれば、売り手と買い手のどちらが止めたのかが問題になります。世界的な景気の冷え込みで業界では「鉄冷え」が広がっているそうですが、その発端は北京五輪の開催準備と関係があるのかも知れません。鉄のスクラップ価格でも今年の7月第二週にピークになってから急落、何故か五輪が終わった後の9月初旬に一度は底を打って少しばかり反発はあったものの10月に入るとまたまた急降下しているのであります。

■円キャリートレードで大儲けしていた連中が、大急ぎで手仕舞いして迷惑な円高を引き起こしておりますが、投資ファンドに大金を注ぎ込めた富裕層や欲深者が先を争って解約して株式市場の底が抜けてしまったのも根っこは同じでしょうから、北朝鮮の地下資源で一山当てようと思って投資した連中がもともとリスキーな商売相手でもありますから、利益を失わないように鉄鉱商売から逃げ出しただけの話かも知れません。まあ、鉄材価格が急落したおかげで、日本のあちこちで金属盗難事件が激減したのは喜ばしい限りでありますが……。