旅限無(りょげむ)

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ソマリア沖海戦 其の参

2008-11-24 16:01:15 | 外交・世界情勢全般
韓国国防省はこのほど、アフリカ・ソマリア沖での海賊対策のため海軍の駆逐艦を派遣する方針を明らかにした。年内に国会の同意を得た後、来年初めにも派遣される。ソマリア沖では一昨年、韓国貨物船が海賊に乗っ取られ、最近も韓国人船員の乗り込んだ外国船が襲われ、船員が拉致されるなど韓国の被害も増えている。韓国内では現地で多国籍の予防・護衛作戦に参加すべきだとの声が高まっていた。派遣が予定されているのは4500トン級の駆逐艦でミサイルや艦砲のほかヘリコプター2機を搭載し、乗員は約280人。日本の海上自衛隊艦艇に先駆けての派遣となる。
11月19日 産経新聞

■産経新聞だから「先駆けての派遣」という書き方になるのでしょうが、同日の朝日新聞になりますと、ロイター社の記事を転載してあっさりとした報道になっています。


……韓国海軍は自国の商船を海賊被害から守るため、ソマリア沖への艦船派遣の承認を国会に求める方針であることが明らかになった。匿名の当局者は19日、「国防省は12月に(艦船)派遣の法案提出を計画している」と述べた。韓国メディアによると、国防省はソマリア周辺海域に少なくとも軍艦一隻の派遣を求めており、法案が可決すれば来年初めに派遣されるとみられる。
2008年11月19日 朝日新聞

■韓国の軍艦一隻は、日本に「先駆けて派遣」される様子はまったく窺えません。朝日新聞は11月22日(土)付けの社説で、政府に対して対応を急ぐように提案はしているのですが……。


……日本はマラッカ海峡の海賊対策で、国際協力の実績がある。マラッカ海峡の周辺国に対し、海上保安庁の巡視船の提供や共同訓練で支援した。ソマリアのケースでも、近隣のイエメンやケニアへの支援でこうした経験を生かせるはずだ。早く具体的な支援策を打ち出してもらいたい。海賊対策に限定して海上自衛隊を派遣できないか、特別措置法で対応する案も超党派の議員の間で浮かんでいる。この案は、外国船籍の船が襲われたときの対応や武器使用基準など、検討すべき課題も多い。……

■どうやら朝日新聞としては、ソマリア沖まで海上保安庁の船に出張って行って欲しいようです。おそらくプルトニウムの海上輸送をテロリストから守るために建造され、1992年に立派に護衛任務を果たした『しきしま』(JCG PHL SHIKISHIMA)を想定しているのかも知れません。海上保安庁が保有する世界最大の巡視船で、尖閣諸島周辺海域での警備や朝日新聞が前例として引いている「マラッカ海峡の海賊対策」でシンガポールやインドネシアなどと合同で訓練に励んでいる軍艦並みの構造を持つ船ではあります。しかし、「並み」という所が問題で、マラッカ海峡を荒らしまわった海賊と今のソマリア沖で大暴れしている連中とは使用している武器や装備がまったく違うようなのが心配であります。

■プロトニウム輸送の時にも海上自衛隊が出るか、海上保安庁に任せるかで議論が沸騰したのですが、ミサイルや重機関銃まで装備している海賊がうようよしているところに出向いて貰うのは、ちょっと気が引けませんかな?訓練に協力している段階はとうに過ぎているのですぞ。朝日新聞の社説は、そんな事よりも重要な課題が有る!と言いたいようです。


……これらの海賊対策は、あくまで対症療法でしかない。根本的な解決策は、ソマリアの内戦を終わらせ、統治力のある政府を作り出すことだ。95年にソマリアでの国連平和維持活動が失敗に終わって以来、国際社会の関心は薄れていたが、再建に向けた支援を強化する必要がある。海賊という「海」の問題は、無政府状態という「陸」の問題の解決なしには終わらない。

■一足飛びに理想的な根本的解決を結論に持って来られれば、読者としては納得するしかありません。本当に「陸」の問題が解決されたら万々歳です。しかし、列強による植民地支配の時代から米ソ冷戦時代の陣取り合戦まで、「アフリカの角」に刻まれた傷跡はあまりにも深いので簡単に「支援」など出来ないのが現状でしょう。その支援を受けるべき正当な政府を設立するだけでも、どれほどの血が流されることでしょう?何せ映画『ボラック・ホーク・ダウン』の現場ですからなあ。

欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の弐拾九

2008-11-24 14:24:53 | チベットもの
■現時点でAPEC会議も終わって各国首脳はそれぞれ帰国の途についていますが、日中首脳会談を巡っては北京側に振り回された麻生コロコロ首相の苦労話?などが紹介されています。笑い話ではなく、予定になかった会談を出発間際に仕掛けられ、外務省スタッフは必死にスケジュールの調整に走り回らされたそうですが、最初から位負けの外交ならば当初の予定通り事務的に対処しても良かったのではないでしょうか?外交では何より面子を大事にしなければならないそうですからなあ。たとえ一本のお祝い電話でも……。

2008年11月9日、香港のニュースサイト「鳳凰網」は、米大統領選に勝利したバラック・オバマ氏が祝電のお礼に自ら電話を掛けた9か国の中に、中国が入っていなかったことを問題視する記事を掲載した。オバマ氏が自ら電話を掛けたのは、日本、フランス、英国などの9か国。……「世界の大国の中で、中国とロシアだけが外された」と不満を表した。昔から緊張関係が続いていたロシアは「外されても仕方がない」としたものの、「中国首脳は米国との良好な関係維持に並々ならぬ努力を続けてきた」と納得がいかない様子。お礼の電話をして来ないオバマ氏に再び自ら電話連絡を取った胡錦濤国家主席をも批判し、経済危機にある米国は中国の助けが必要なはずなのに「中国の怒りを買っても怖くないのか?」と息巻いた。

■当選を祝う電話をするのは当然の礼儀ですから、その段階では余程横柄な態度でも取らない限り儀礼的に対等関係が守られますが、香港メディアが目くじらを立てた返礼電話となると、時差の関係で失礼にならない配慮はするにしても、基本的には順番が特別な意味を持つでしょう。最初からリストに載っていなかったとしたら、オバマ新大統領もなかなかヤルものだと感心します。その一方で、「お礼の電話が来ませんが……」と電話を掛け直している胡錦濤主席は何を焦っていたのでしょう?記事が「中国の助けが必要なはず」と言うわりには、APECの会場ではそのような発言も提案も無かったようですなあ。麻生コロコロ首相がすったもんだの末に会場の隅っこで立ち話同然の首脳会談を20分ほどした時も、大金を拠出する日本に同調するように誘ったのに色よい返事は聞けなかったとか……。

■「怒りを買っても怖くないのか?」ぐらいの事を、たまには日本政府の誰かからも聞いてみたいものですなあ。勿論、見当ハズレの夜郎自大発言にならない場合に限りますが……。


記事はこの原因について、ブッシュ政権下で亀裂の入った同盟国との関係改善が優先された、と指摘。中国を冷遇することで日韓などの「恐中国家」に安心感を与え、米国の都合の良いように動かすつもりだ、と皮肉った。さらに、「新人」オバマ氏に対し、「何を重視すべきなのか、まだわかっていないようだ」と指摘。就任後、中国にお礼の電話をしなかったことを後悔することになろう、と締め括った。
11月10日 Record China

■読者は溜飲を下げて大喜びしたのでしょうが、米国民が読んだらさぞや腹を立てて根に持つことでしょうなあ。それに引き換え「恐中国家」と名指しされた日本では、この記事を取り上げて論評したメディアは無かったようです。大国の自信や寛容が理由ならよいのですが……。再び話はチベット問題に戻ります。

欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の弐拾八

2008-11-24 14:24:40 | チベットもの
■でも、国際社会では五輪大会を「大成功させた」という既成事実が作られると、その国の政府は肩で風を切って歩けるもののようですなあ。

2008年11月9日、中国の胡錦濤国家主席は8日夜、オバマ次期米国大統領と電話で会談し、両国の今後の関係発展に向けて話し合いをもった。……胡主席は「国交樹立30年の間に、中米両国間に確かに紆余曲折はあった」と認めながらも、「総じて前向きに関係を発展させてきた」と評価。「世界最大の発展途上国と世界最大の発展国として、中米両国は世界平和と発展に貢献するという共通の重要な責任を負っている」……「両国トップレベルでの対話を続け、2国間の交流や協力範囲を拡大しながら、台湾問題などデリケートな問題をさらに踏み込んで話し合いたい」と語った。

■この電話会談には興味深い裏話があるのですが、それは後述。胡錦濤主席が言う「紆余曲折」には、核使用の可能性さえあった血みどろの朝鮮戦争もソ連と黒幕競争をしたヴェトナム戦争も丸ごと含まれているのは明らかで、それで済むなら日本の「村山談話」でも「天皇陛下のお言葉」でも、しっかり借用させて頂きたいものですなあ。この「紆余曲折」が「国交樹立30年」という期間を限定して使われている所にも注意が必要でしょう。蒋介石が率いた中華民国にこそ米国は多大な軍事援助を続けていたのですから、後の国共内戦時代には毛沢東率いる共産党軍は米国製の武器弾薬で多大なる犠牲を払ったことは封印されているわけです。日本も同じ外交手法は使えないのでしょうか?いろいろと名目を作ってはいくらでもカネを出すような国に対しては、これほど気を使った言葉遣いはしないのでしょうなあ。

■それにしましても「世界最大の発展途上国と世界最大の発展国」とは、何とも上手な表現であります。発展途上国だと言い張ることで、世界最大の地球温暖化ガスを好き放題に放出できますし、一方の世界最大の発展国はイラク戦争で泥沼に嵌まって身動きが取れない足元で、金融危機のクラスター爆弾が破裂したのですから、破片が飛び散った世界は大変な迷惑を蒙っております。まったく「世界最大」というのは傍迷惑なものですなあ。


これに対しオバマ氏は「中国は偉大な国家であり、中国の発展と成功は米国の利益に繋がる。現在の国際状況を考えると、米中関係の発展は両国にとってだけでなく世界にとっても有益」と述べ、治安や異常気象、地球温暖化などの問題に両国が協力して積極的に取り組むことを求めた。

■京都議定書を蹴っ飛ばした国と、議定書の「最大の欠陥」を利用して迷惑なガスを出し続ける権利?を主張する自称・途上国の首脳同士が、地球環境をネタにして互いに当て擦りを演じているように見えないこともありませんなあ。本当に「協力して積極的に取り組」んでくれると嬉しい!


「今回の世界的金融危機は国際金融システムのほころびを露呈した」と話す胡主席は、「国際社会はこれを教訓にして、国際金融システムに必要な改革を推し進めていくべきだ」と主張。オバマ氏も世界的金融危機について中国首脳とのトップ会談の必要性を認める発言を行った。
2008年11月10日  Record China

■「教訓」にするのは危機を回避した後です!オバマ新大統領としては「トップ会談」で大穴が更に開がってしまった米国経済の穴埋めに、チャイナが貯め込んだ外貨を使いたいのが本音でしょうが、何処かの島国とは違って既に巨額のドル国債を売り払って見せた相手ですから、米国政府としても口の利き方には最新の注意が必要でしょうなあ。今のところ、オバマ新大統領の口からはチベット問題に関する具体的な発言は出ていないようですが、積年のアメリカの壁を崩した人物として人権問題の解決に何処まで迫れるか?まだまだ本音は見せない新大統領であります。

テロの季節?

2008-11-24 12:29:33 | マスメディア
■旧厚労省事務次官連続襲撃の事件は、「年金問題」「義憤」「政治テロ」などとは何の関係もない地方出身の寂しい男の、思い込み・八つ当たりの犯罪として片付きつつあるようです。周辺情報として昔の「ピアノ騒音殺人事件」を思い出す人格の歪みや、対人関係が不得手で孤立してしまう性格などが取り沙汰されているようです。出頭後の様子などから宅間守死刑囚を思い出す人生の幕引きを決意した人間の表情も読み取れそうですが、どうやら、容疑者の「供述」を大真面目に聞かない方が良さそうな感じがしますなあ。巷で囁かれる「黒幕説」は消えないでしょうが……。
 
■武器か美術工芸品かの区分けと判断が難しい刃物が凶器に使われる犯罪は、事前に予防や予測をするのは困難で、どんなに『銃刀法』を改正したところで、身近にある包丁・カッターや鋏まで没収したら社会生活が破壊されてしまうのですから、身辺に異変を感じたら即座に逃げて難を避けるしかなさそうです。宅配便を装った者に狙われて襲われるという事態は、極極稀なことなのですから、針小棒大の騒ぎを起こすのが仕事のマスコミに踊らされる必要はないでしょう。同じ「装う」なら、家族に成り済ましたり、公的機関の役人に成り済まして電話を悪用する詐欺犯罪の方が何千倍も身近に迫っているのですし、いろいろ問題のある自動車が襲い掛かって来る確率もずっと高いのですからなあ。

■世界的に見ても治安の良さは日本が誇れる美点の代表なのですから、我が身の自衛と生活防衛を考えるのなら、しっかり危険度のランクを認識しておくべきでしょう。


午前10時2分、高知市 22日午後11時35分ごろ、高知市南はりまや町の食品卸業「旭食品」本社で、爆発のような音がしたと通報があった。……約30キロ離れた高知県芸西村のゴルフ場では18日、クラブハウスのガラスが爆発物で破壊された事件があった。旭食品の竹内克之会長はゴルフ場を経営する「黒潮観光開発」の役員を兼務しており、県警は23日、同一犯による事件の可能性もあるとみて捜査本部を設置、建造物損壊容疑で調べている。竹内会長は県公安委員も務めている。……ゴルフ場は27日から開催される男子プロゴルフトーナメント「カシオ・ワールドオープン」の会場。
2008年11月23日 産経ニュース

■この報道の前日に県は違いますが同じ四国で発した連続爆破事件に関するニュースがありました。


徳島市で10月、創価学会徳島文化会館など2か所のビルのドアが爆発物で壊された事件で、徳島県警徳島東署の捜査本部は21日、徳島市不動東町、無職堀たかあき容疑者(35)を爆発物取締罰則違反などの疑いで逮捕した。堀容疑者は「自宅で爆竹の火薬を使って爆発物を作った」と容疑を認めているが、動機について「以前から右翼関係の本を読んでいた。敵対する団体を狙った」と供述しているという。……堀容疑者は10月13日午前1時20分頃、同市南内町の、県日中友好協会の入った民間ビル1階に仕掛けた爆発物でドアを壊し、同日午前4時半頃には、同市南沖洲の創価学会徳島文化会館正面入り口ドアを爆破した疑い。
2008年11月22日 読売新聞

■標的にされたのが公明党の支持団体だったからか、日中友好関連の機関だったからか、マスコミの報道は不自然に小さな扱いだった印象がありました。今回の事務次官連続襲撃が「政治テロ」なのかどうかの議論が、容疑者が出頭する前には盛んでしたが、この徳島市での爆破は明らかにテロ行為でしょう。第一報を聞いた時に「連続」という点が妙に気になったのを覚えておりますが、これが小泉毅容疑者に何かのインスピレーションを与えたのかどうかは分かりません。

■渋谷区で火薬類の専門家が大きな爆発炎上事故を起こしたニュースを思い出しますが、この犯人は市販の爆竹をバラして利用しているようですから、詰め込み作業で事故を起こさなかったのは御近所の皆さんにとっては幸いでした。犯人が創価学会と日中友好協会を「敵対する団体」と見なしていたのですから、これは間違いなく「政治テロ」でしょう。人的被害が無かったから事務次官連続襲撃事件のような大騒ぎにならなかったのだとしたら、「昭和初期に似ている」と危機感を煽る一部のマスコミは平衡感覚に欠けていると申せましょう。


高知県芸西村のゴルフ場と、高知市の食品卸売会社の玄関ガラスが爆発物で破壊された2つの事件で、いずれも手榴弾が使われたとみられることが24日、高知県警の調べで分かった。……両現場には、手榴弾の破片とみられる金属片や安全ピンが落ちていたほか、爆発の衝撃でできたとみられる穴が床に開いていた。……
2008年11月24日 産経ニュース

■拳銃の密輸や変造に関する報道がめっきり減ったと思っていたら、何処かから手榴弾が入り込んでいたというのは衝撃的です。破片や安全ピンが発見されているのなら、おそらく手製ではないでしょう。手榴弾にも多くの種類がありますから、優秀な鑑識が製品を特定してくれるでしょうが、さてさて、何処の国が製造した物なのでしょう?日中友好の暗黒面につながっているのか?不良米兵が小遣い稼ぎをしているのか?東南アジアの某国か?はたまたロシア製か?

■高級官僚が狙われた時だけ大騒ぎしていると、本当にテロの季節がやって来たのかどうかが分からなくなるというお話でした。
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