旅限無(りょげむ)

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広がる麻薬禍 その四

2008-11-08 13:55:07 | 社会問題・事件
■健康ブームに乗って禁煙運動が欧米に始まって毎度の事ながら日本も追随して喫煙者の都合などは一切考慮されずに、あちこちでタバコが悪者扱いされる風潮は止まらないのでありますが、自分の肺癌を告白していた筑紫哲也さんが肺炎で死去されたと、追悼の言葉がマスコミの「半分」に溢れているのを見ていますと、間の無く「筑紫さんの命を奪ったタバコ」が話題になるのは間違いなさそうです。

■喫煙者の多いフランスなどでは、ぐっと冷え込んで来たというのにカフェの客は歯を食いしばって屋外のテーブルでエスプレッソの香りとタバコを楽しんでいるのだそうです。ロンドン名物のパブでも全面禁煙となって、伝統的な雰囲気を楽しむにはいろいろと「工夫」が必要になっているとか……。そんな健康志向の裏側で医者ならぬ警察が扱う麻薬犯罪が多発しているのは実に皮肉な話ですなあ。

■大騒ぎが起こった相撲界では八百長裁判だの朝青龍の休場・進退問題などが煙幕になって、ロシア人力士3人組だけに麻薬問題を封じ込めるのに、どうやら成功しているようですが、警察の捜査に何がしかの圧力でも掛かっているとしたら、これまた大問題だと邪推もしたくなる非常に不自然な幕切れであります。昔から麻薬犯罪の温床として有名だった芸能界にも飛び火した後、今度は大学校内でも逮捕者が出始めまして、何処まで問題が広がっているのか見当もつかない状況になっているようですなあ。

■漏れ聞くところによりますと、1グラムの大麻草は3000円~5000円で取り引きされているそうですから、振り込め詐欺に流れ込んでいた就職難民が麻薬の販売要員に雇われるような変化も起きているとも考えられます。手っ取り早く現金を手に入れたいとか、手段を選ばず一攫千金を夢見る困った連中にとって、こんなに美味しい商売は無いでしょう。あの大英帝国もアヘン貿易で巨万の富を築いて太陽が沈まない大帝国を作り上げたのですし、世界的な金融危機が心配される中、ニューディール政策を行ったルーズベルト米国大統領の名前が頻繁に取り上げられているようですが、そのルーズベルト家もアヘン貿易で成り上がったそうですから、麻薬商売は人類が行う商売の中で最大の利益率を誇っているわけです。

■タバコは癌などの原因となるから禁煙運動を推進すれば医療費を削減できるという話になっておりますが、タバコの代わりに麻薬を愛用する者が増えれば、恐ろしい凶悪犯罪が増えたり、中毒患者の治療と更正には癌治療よりも多くの費用が掛かるとも言われていますから、麻薬禍は一刻も早く取り除かないと国が傾く危険があります。


福岡県警博多署は、乾燥大麻を持っていたとして大麻取締法違反(所持)の現行犯で住所不定、無職、北川良平容疑者(28)と福岡市南区野間、自称飲食店従業員の吉岡隼人容疑者(28)を逮捕し、2人が出入りするマンションから大麻草108株(末端価格約1億800万円)などを押収した。……同市博多区のマンションの一室で袋に入った乾燥大麻127グラムを所持していた疑い。このマンションから大量の大麻草などが押収されており、県警は2人が販売目的で栽培していた疑いもあるとみて追及する。マンションは2人とは別の名義になっており、他に関与した者がいないかも調べる。10月下旬に「カーテンを閉じたままのマンションの部屋がある。大麻でも栽培しているのではないか」との匿名通報が県警にあり調べていた。
2008年11月6日 産経ニュース

■1グラムで5000円なら、発見された127グラムの「商品」は63万5000円の値が付くことになります。加工前の「原料」の多さからして、莫大な売り上げがあったとも考えられますが、それだけの「需要」が有るということですから、常用者でも見つかったらその対応には呆れるほど多額の公的資金が必要になるわけですなあ。無職で28歳と恐らくは水商売の28歳が逮捕されて一応の治療と懲役を済ませた後、麻薬商売以外の真っ当な仕事に就けるかどうか、詐欺と麻薬は再犯率が異様に高いと聞きますから、非常に心配です。

欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の壱拾参

2008-11-08 01:15:30 | チベットもの
■11月6日に東京都墨田区の両国国技館で4500人以上もの聴衆を集めて、ダライ・ラマ法王の講演会が開催されたのですが、その内容どころか開催自体もあまり報道されていないようです。実に不思議な話でありますが、世界最強を目指してマスコミを大喜びさせている石井慧クンが質疑応答の時間に「進路相談」をした事だけはネット・ニュースで流されているというのも、ますますチベット問題に関して日本のマスコミが関心を持っていないことを強調しているような気がしますなあ。

■因みに鈴木慧クンの質問は、毘沙門に関するものではなく、「自分で決めた」総合格闘技の世界で1等賞になれるように頑張るべきか、斉藤監督の命令に従って「長いものに巻かれ」て某企業に就職して、普通の常識的な社会人になってゆくゆくは柔道協会で出世するのを唯一の楽しみにして過ごす人生を選ぶべきか?というものだったようです。故・林家三平さんの娘さんが歌手として再デヴューするために騒動を起こして恥を晒しているのと同じ下品な「宣伝」のようにも思えますが、石井慧クンの暴挙?がなければ両国国技館でダライ・ラマ法王が講演をした事実が報道されなかった可能性もありますから、怪我の功名だったということでしょうか……。

■ダライ・ラマ法王のお話は「他者を思いやる心の大切さ」をテーマにしたものだったそうですが、最も耳を傾けて欲しい北京政府は完全に無視しているようですし、同時期に行われた非公式交渉の席でも木で鼻を括ったような話になっているようなのが残念ではあります。ノーベル平和賞の受賞者でもあり、チベットの精神的指導者でもある国賓待遇で迎えても決しておかしくない地位と名誉を兼ね備えているダライ・ラマ14世の来日をほとんど報道しないというのは、北京五輪は大成功だった!というIOCの妄言と北京政府の自画自賛を公認しているようなものですから、これは報道の自由にかかわる重大な問題かも知れません。

■来日中に語っておられる内容とノーベル賞を受賞した時のスピーチは基本的には同じものなので、続きを読みましょう。


仏教僧侶として、人類家族の全員、さらに感覚を有する全ての生き物の苦しみは無知が原因で生じるものだと、私は信じています。人々は自らの幸福や満足を利己的に追求して他人に苦痛を与えています。しかし真の幸福は兄弟姉妹の感覚からくるものです。私たちは、人間どうしの、さらに私たちが共存しているこの惑星に対する普遍的な責任感を養う必要があります。敵視する人々に対してさえも愛と慈悲の気持ちを生じるようにするために私たちの仏教が助けになることは明らかです。しかし、信仰の有無にかかわらず思いやりの心や普遍的責任感を育むことができるのもまた確かであると思います。

■「感覚を有する全ての生き物」を漢訳経典では「衆生」という単語が当てられています。インド伝来の微生物から巨大動物までを網羅する大きな概念で、「輪廻転生」の参加メンバー全員を含んでいるわけです。釈尊が探り当てた苦るしみの根源的原因が「無知」で、そこから欲望やら何やらややこしいものが湧き出し続けて、せっかく人間に生まれても、保険金詐欺の執行猶予中の身で無免許・飲酒運転をして軽傷で済んだはずの被害者を3キロも引き摺り回して死亡させておきながら、ホストに転職して夜な夜な大酒飲んで〆のラーメンをにやにやしながら喰っていられるような生き方をするのが人間というものなのかも知れませんなあ。

■人としての苦を脱却するためには悪い業を積まないのが肝腎で、それには他者の苦痛を思いやる想像力が欠かせないというわけで、すべての生き物が前世や来世で自分の血縁者である可能性を考えると「兄弟姉妹の感覚」が生まれて、そんなに酷い事はしないようになるというお話です。しかし、毎日、尊属殺人のニュースが流れているようでは、こうした教えも役に立たないのかも知れませんなあ。