旅限無(りょげむ)

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欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の壱拾六

2008-11-11 19:58:47 | チベットもの
■来日した姿はテレビのニュースで流れたものの、滞在中の活動についてはほとんど報道されず、離日のことなど何処を探しても報道された形跡がないというのは解せません。来日前に手術を受けておられたので、御高齢でもあり体調が少々気懸かりだったダライ・ラマ法王でしたが精力的にスケジュールをこなし、東京での講演では花束贈呈役の石井慧クンが人生相談をしたことだけはスポーツ新聞等で取り上げられたのでした。でも、スポーツ新聞や芸能ネタで扱う人物かどうか、日本のジャーナリズムが品格と見識が問われるところでしょうなあ。

チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が31日から11月7日まで8日間、日本を訪問することが17日分かった。ダライ・ラマ法王日本代表部のラクパ・ツォコ代表が明らかにした。当初の予定では11月2日に来日することになっていたが、ニューデリーの病院で行われた胆石除去の切開手術の経過が良好なため、来日予定を早めたという。

■単純に術後の経過が良いから予定が早められたわけではないような気がします。同時期に行われた北京政府との交渉を受けてインドの亡命政府所在地のダラムサラで予定されている重要な会議の準備期間を多めに取っておく必要があったのではないか?と推測できそうなのですが……。


ラクパ代表によると、ダライ・ラマは日本滞在中、超党派の有志議員でつくる「チベット問題を考える議員連盟」(代表・枝野幸男民主党衆院議員)メンバーと会談する予定。昨年11月、民主党の鳩山由紀夫幹事長ら同議連メンバーが訪日中のダライ・ラマと会談し、中国側から抗議を受けており、今回も中国側を刺激するものとみられる。

■こうして予告されていた枝野議員との会談は、実際に行われたのか、何らかの理由で取り止めになったのか?その場合は中止の理由も含めて議員連盟の方から正式な発表があって然るべきなのですが、現在に到るまで何の発表も無いようです。こまめに更新されている枝野議員の公式HPにも、会談の件はまったく触れられていない模様です。麻生コロコロ首相との対決や選挙準備が忙しいのでしょうが、テレビ朝日の「朝まで生テレビ」に出演するくらいの時間的余裕があるのなら、東京都内で会談するのも可能だったはずなのですが……。


今回のダライ・ラマの訪日は、福岡県仏教連合会が設立35周年を記念して招いたもの。11月4日、北九州市のメディアドームで講演を行うほか、6日にも東京都墨田区の両国国技館で講演する。また、ラクパ代表はチベット問題をめぐるダライ・ラマの特使と中国側代表による対話について、今月末に北京で開催されるとの見通しを明らかにした。北京五輪後では初めての対話となり、公式協議は今回で8回目。前回は今年7月1、2日に北京で開催された。
10月17日 産経新聞

■福岡県の仏教連合会も立派な企画をしたものですが、福岡県内での講演に関しては某女子高校で生徒たちにダライ・ラマ法王が「思いやりの心」の大切さを語ったという小さなニュースが流れただけで、肝腎のメディアドームでの御様子は全国ニュースにはならなかったようです。他のノーベル平和賞受賞者が来日しても、このような扱いをするのでしょうか?

■議員連盟にしても報道メディアにしても、北京五輪大会の前に何が起こったのかを忘れてしまったわけではないでしょう。あれほど「人権問題」の改善するという開催条件を無視するような騒動が起こって、大会後も監視と圧力が続いているというのに、腫れ物を触るように北京政府の反発を怖れているのでしょうか?北京五輪を振り返るにしても、活躍した選手たちは話題になっても大会自体を振り返るようなメディアは見当たらず、開催さえしてしまえば後は知らん振りしても大丈夫、という悪い前例となるのが心配ですなあ。

恐怖の輸入品

2008-11-11 15:09:03 | 外交・情勢(アジア)
■今は首相の地位で我慢しているプーチンが大統領に就任したばかりの2000年8月に、北方艦隊の原潜クルスクが沈没して乗員118人全員が死亡するという大事故が起こりましたが、今度は当て馬に子分のメドベージェフを大統領に就かせて軍事力の再興を急がせ、自分が再出馬する時のために着々と舞台作りが進められているようです。憲法を変えて任期も現行の4年から6年に延ばしておくほどですから、次に登場する時には2期12年ぐらいは平気で大統領に君臨するつもりなのでしょうなあ。

■それが原因ではないのでしょうが、メドべージェフが大統領になって丁度半年、またまた大規模な潜水艦事故が発生したのは無気味な偶然の一致であります。大統領が変わる度に原子力潜水艦が沈んでいたら、海軍を志願する若者が居なくなってしまうかも?


日本海を航行試験中だったロシア太平洋艦隊(司令部・ウラジオストク)の原子力潜水艦で20人が死亡した事故は、犠牲者のうち17人が潜水艦の建造に関係する民間の技術者だったことが10日、ロシア検察当局の調べで明らかになった。犠牲者らは何らかの理由で作動した自動消火装置のフロンガスを吸って死亡した可能性が高まっており、防護マスクの使用など民間人の事故対策が十分に施されていたかも原因究明の焦点となってきた。

■ソ連が崩壊した後、厳重な機密扱いだった潜水艦の中が公開されたことがありましたが、乗員が使っている食器が陶器だったことに西側の軍人たちは腰を抜かすほど驚いたとか……。静粛性と隠密性が求められる潜水艦の中で、カチャカチャ音を立てながら食事をしたり、うっかり者が食器を落としたらさぞや盛大な音がするでしょうからなあ。潜水艦自体は頑丈に作られていて国際標準に達していたようですが、やはり使用方法にはいろいろと問題があったのでしょうなあ。


……事故を起こしたアクラ級原潜「ネルパ」には定員73人の3倍近い208人が乗艦。うち軍人は81人で、残り127人は潜水艦の建造にかかわる造船工場や電子機器関連の民間技術者だった。

■居住スペースを極限まで縮めているはずの潜水艦に乗員の3倍も乗り込んだら、トイレなどは大変な状況になってしまうのではないか?と素人は下らないことを心配してしまいます。本当に火災が起こった場合には、安全な区画に逃げ込まねばならないでしょうから、退避スペースが狭かったら圧死してしまうかも?


軍事専門家によれば、消火装置発動の際に乗艦者が防護マスクを付けるのは常識で、フロンガス放出を知らせる警報装置が作動しなかったり、民間人が防護マスクの使用に習熟していなかったことが被害拡大の理由として考えられるという。艦隊司令部のある極東の沿海州は11日を服喪の日とし、テレビ局に娯楽番組の放映を自粛するよう求めた。
11月11日 産経新聞

■アクラ級の潜水艦というのは安くてコンパクトな、まるで日本製の自動車みたいな新型原潜なのだそうです。どんなに安くても原子力潜水艦なのですから、手抜き工事などされたら近所迷惑なことになります。ソ連が崩壊した後の経済的な混乱で、古くなった原潜を安全に解体する資金が無いというので、日本政府が大金を贈ったのですが、スクラップの資金は無くても新型原潜を作るカネは持っているというのも変な話です。日本としてはシベリアや樺太の地下資源を優先的に売って貰う心算だったようですが、チャイナの方が先回りしてパイプ・ラインを自国に引っ張り込んだり、石油の掘削にもどんどん投資しているとか……。

■今回の原潜ネルパの事故にもチャイナが関係しているという話があるのは実に皮肉ですなあ。


日本海を試験航行していたロシア太平洋艦隊の原子力潜水艦が8日、消火装置の誤作動で20人が死亡した事件で、ロシアメディアは原因を「中国製の質の悪い原材料を使用したせいだ」と報じた。……事故を起こしたのは、攻撃型のアクラ級原潜「ネルバ」と見られている。9日付ロシア紙「Komsomolskaya Pravda」によると、この原潜は旧ソ連時代の91年、アムール州の造船所で建造に着手。96年にほぼ完成を迎えたが、その後8年間も放置された。04年からさびや老朽化した部分の修繕が始まり、07年にようやく完成。今年10月に始まった試験運行の後は、インド軍に貸し出される予定だった。

■そう言えば、『ゴルゴ13』シリーズのコミック第105巻に収められている第326話『北緯九十度のハッティ』が、中古の原潜をソ連がインド海軍に貸し出すという話でしたなあ。密閉された潜水艦内部での殺人と破壊工作というのは何とも怖いものであります。ついでに第142巻に入っている第410話『イリスク浮上せよ』はクルスクの沈没事故を下敷きにした作品で、軍事費が大幅に削られていたというのにロシア海軍は頑張って空を飛ぶ魚雷を秘密裏に開発していたという内容でしたなあ。『ゴルゴ13』はフィクションですから、現実のロシア海軍はもっともっと深刻な事態に陥っている模様です。


同紙がこの造船所の職員から得た情報によると、経営危機に瀕していたこの造船所には熟練の作業員は1人も残っておらず、原潜を建造する際も質の悪い原材料を使っていた。原材料のほとんどは中国製。事故のあった原潜は最初の進水試験では、隙間からの浸水も発生していたという。
11月11日 Record China

■可哀想な目に遭っている造船所は海ではなくアムール川にあるアムール造船所のことです。アムール川が支流のシリンカ川と合流する場所にあるコムソモリスク・ナ・アムーレ市に置かれた別名「第199造船所」だそうです。1932年の創業と言いますから、日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を「撃滅」してしまった大日本帝国に対する復讐を目的として、誰かさんが守りやすい内陸の川沿いに造船所を強引に作ったのでしょうなあ。確かにアムール川は川幅も広いし、河口は日本とアメリカに向かって開いているようなものですから、太平洋を睨む絶好の立地条件!

■でも、マフィア化した闇経済では巨大な艦隊を持つのは難しいでしょう。海軍からの注文がめっきり減ったアムール造船所は青息吐息で大変なのだそうです。今回、大恥を掻いた原潜ネルパもインドから資金提供を受けて建造が再開されたそうですから、「貸し出す」どころか実質的には「お買い上げ」みたいなものでしょう。例の『ゴルゴ13』では、チャイナの小平がインド洋の制海権をインドに奪われたら大変だあ!と勘が鈍い部下を怒鳴りつける場面がありましたなあ。まさか、現実の世界でも沈没するように質の悪い原材料を意図的に売りつけていたのか?いやいや、極普通のメイド・イン・チャイナの製品だったのでしょう。チャイナの潜水艦も火災を起こしたり沈没したりしますからなあ。そんな物騒な潜水艦で日本の領海をうろうろして欲しくはありません。
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