旅限無(りょげむ)

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アメリカの夢 其の弐

2008-11-13 10:20:48 | 外交・情勢(アメリカ)
■アメリカの夢は女性解放に関しても一定の限界があるそうで、レディー・ファーストの精神よりも聖書の創世記に出ている神の似姿として作られた男とは違う創造物という変な解釈が根強く残っている地域があちこちにあるとか……。

米大統領選挙で民主党のバラク・オバマ陣営に敗れた共和党の副大統領候補サラ・ペイリン・アラスカ州知事は10日、地元メディアの取材に応え、共和党が敗北したのはブッシュ政権の不人気が原因だったとの見方を示した。……「共和党陣営は過度に現体制を代表し、過去8年間に起きたことを代表してしまった」と述べ、イラク戦争をめぐるブッシュ政権の失敗や米国が抱え込んだ膨大な借金を理由に、共和党政権からできるだけ離れたいという人々の意思が働いたと分析した。

■ブッシュ政権の大失敗に米国中の人々が辟易しているのは前から分かっていた事で、共和党内で「一匹狼」と呼ばれたマケインさんが候補になって、選挙運動中もブッシュ政権との距離を大々的にアッピールしていたはずです。その横で大はしゃぎしていたのがペイリンさんで、初の女性副大統領になるかも?!と最初はなかなかの人気でした。その後、可哀想なくらいに人気が凋落してしまったのは身から出たサビとしか言いようがありません。


ペイリン氏は4年後の大統領選への出馬もうわさされるが、フォックスニュースのインタビューでは「わたしのために開かれた扉があるのなら、それを逃したくない。12年後であろうと4年後であろうと、わたしの家族と州、国のためになるのなら、そしてわたしにとってのチャンスとなるなら、その扉を押し開ける」と語っている。

■演説用に大急ぎでスタッフが基本的な常識事項をレクチャーしたら、アフリカが国名だと思っていたとか、米国と自由貿易協定を結んでいる相手国を知らなかったとか、腹立ち紛れに暴露する者が現れて、御本人は怒り心頭に発しているそうですなあ。


共和党が選挙期間中にペイリン氏の服飾費に15万ドル(約1500万円)を費やしたことについては、「わたしが頼んだわけでも望んだわけでもない」と弁明した。陣営関係者によると、購入した洋服やアクセサリーなどは慈善目的で使うか店に返品するかペイリン氏に買い取らせるかを現在協議中だという。
2008年11月11日 CNN/APニュース

■アラスカから出て来て全米を飛び回るのですから、相当な資金が必要だったのは分かりますが、家族旅行と政治活動を混同したような勘違いは不味かったでしょうなあ。「親しみ易さ」と軽率さを混同していた節もありました。御高齢のマケイン候補が当選したら、健康上の理由で副大統領が代役を務めねばなりません。もっと若い候補だったら単なるお飾りで済みますが、無知蒙昧ぶりが暴露されてしまったペイリンさんが本当に大統領職を担うかも?と考えたら、やはり投票を躊躇するのが普通でしょうなあ。ああいう人でも知事になれるのがアラスカ州という場所なのだと分かったのは一つの功績だったかも?

■しかし、これで女性の副大統領というアメリカの夢は遠退いてしまったのでしょうなあ。ヒラリー・クリントンで初の女性大統領!という話も消え、オバマ大統領と仲直りして初の女性副大統領!という話も無くなったので、女性大統領の出現はまだ先のことになりそうです。でも、黒人大統領よりも女性大統領の方が先に実現するだろうと予測する米国人が多かったはずなのです。やはり、順番が違って早過ぎた夢の実現だったかも知れませんなあ。


今月14、15の両日にワシントンで開かれる金融危機に関する首脳会議(サミット)について、オバマ次期米大統領はサミットへの参加を見送るほか、外国首脳との個別会談にも応じない方針を固めた。政権移行チームのジョン・ポデスタ共同議長が11日、記者会見で明らかにした。……「同じ時期に大統領はひとりだけだ。(ブッシュ)大統領が米国のために会議で発言することが大切だ」と指摘。今回のサミットは現政権に委ね、オバマ氏は距離を置く姿勢を示した。

■今回の金融危機はブッシュ政権が続けた自由放任市場主義が育ててしまったモンスター投資銀業が、これまたブッシュ大統領が実施した「持ち家政策」を食い物にしてサブプライム・ローンという毒物を世界中に撒き散らしたのが原因とされているのですから、世界中の冷たい視線を浴びて、せっせと自分が撒いたタネの刈り取り作業をするのはブッシュ大統領の役目です。そんな恥ずかしい場所に同席して就任前から同罪扱いされるのは真っ平御免!というわけなのでしょう。


サミットは20カ国首脳による14日の夕食会で実質的に幕を開け、15日を討議にあてる。……10日にオバマ氏がサミットに参加しない方針を明らかにしていたが、ポデスタ氏は首脳との会談拒否を含めた徹底的な不参加の方針を打ち出した。……オバマ氏の不参加方針について、米メディアは、政権発足後の金融政策でフリーハンドを確保したい思惑だと伝えている。
11月12日 産経新聞

■ブッシュの悪夢から早く覚めたい世界の首脳たちは、新しい夢を語りそうなオバマ新大統領に目も心も奪われているとか……。針の筵(むしろ)に座らされるブッシュ大統領にとっては、晩餐会の御馳走は砂を噛む様に味気ない物でしょうし、急速に実体経済が悪化している各国の首脳も飯など食っている場合じゃない!という切迫感があるのではないでしょうか?世界の首脳たちが本気で経済危機に取り組んでいると示すには、儀礼的な晩餐会を中止して会議の時間を延ばした方がよいような気がします。福田ホイホイ首相が1人ではしゃいで何も決まらなかった洞爺湖サミットとは違うのですからなあ。
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アメリカの夢 其の壱

2008-11-13 09:44:03 | 外交・情勢(アメリカ)
■4年に一回、五輪の年に行われる米国の大統領選挙は「南北戦争」の再現だという解釈があるそうですが、今回の選挙の結果を見ると東西両岸と内陸部との対立が主軸となっています。勿論、オバマ候補の地元イリノイ州は内陸部ですが、五大湖の一つである海のように広いミシガン湖に面した立地で北からマケイン陣営を包囲した格好になって、2004年の選挙ではブッシュ大統領が勝ったアイオワ、バージニア、ニューメキシコ、ネバダ、コロラドの各州までオバマ候補が奪還したのですから、マケイン陣営は内陸部を東西に分断されて大いに苦戦したのでした。

■米国の二大政党制を象徴的に説明すると、米国に生まれて良かったなあと思う人は共和党を支持し、トンデモない国に生まれ(来て)てしまった!と感じている人が民主党を支持するという話もあります。事前のアンケートでは黒人候補を支持すると答えておきながら、本番の投票では白人候補に投票する「ブラッドレー効果」が起きる可能性を含めて、米国の世論が真っ二つに割れて大接戦になるという予測は外れて、結果はダブル・スコアでオバマ候補の勝利となりましたから、今の米国はトンデモない国になっていると実感している人が多いことになります。その反対に、今でも世界で最も偉大な国だ!と言い張っている人も少なくないのも事実で、その中には「南北戦争」ならば断然、奴隷制を容認する南軍に組するつもりの超保守派も含まれているわけで、一発の銃弾で歴史がコロリと変わってしまうアメリカの悪夢がまた起こると内心では考えている人も居るのでしょうなあ。


米紙タイムズ・ピカユーン(電子版)は12日、白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)への加入儀式を途中で離脱しようとしたオクラホマ州の女性がメンバーに射殺されたと報じた。捜査当局は事件に絡み、ルイジアナ州のKKKメンバー8人を殺人などの容疑で逮捕した。同紙によれば、女性はKKKグループのウェブサイトを見て7日にルイジアナ州を訪れメンバーと接触した。髪をそるなどの儀式の後、川の中州に連れて行かれ、さらに儀式が続いた。9日に離脱を決意したが、リーダーの男と口論となり、撃たれたという。 
11月13日 時事通信

■殺害された女性の出身地であるオクラホマ州も、殺害された場所のルイジアナ州もマケイン候補が勝った所で、KKK団(クー・クラックス・クラン)が結成されたテネシー州でもマケイン候補が勝っています。元々、南北戦争が終わって敗れた南軍の退役軍人が作った親睦会が発展したのがKKK団ですから、大統領選挙が現代の「南北戦争」と言われるのも当然なのかも知れませんなあ。解放された奴隷に始まってユダヤ人やらアジア系移民やら、次々と排除すべき対象を増やしながら巨大化したとされる団体ですから、オバマ大統領が当選したからには組織として危機感を持つのは当然なのでしょうが、8月の段階でオバマ候補を暗殺しようとした3人組が逮捕されているアメリカには、やはりオバマ候補は少しばかり早過ぎたのかも知れません。その選択の重さを米国の人々はこれから実際に感じるようになるのでしょう。


米大統領選で銃規制に積極的な民主党のバラク・オバマ候補が当選したことを受け、銃規制が厳しくなると不安に感じた人々が銃の購入に走っている。大統領選後、全米の銃器店で売り上げが増加し、前年と比べて2~3倍となった店舗も出ている。……銃の販売量増加を強く実感しているのは、コロラドやオハイオ、コネティカット、ニューハンプシャー各州の販売店。いずれも、民主党政権下で、銃規制が強化されることを懸念している。

■金融危機で不景気の嵐が吹き始める中で、震源地の米国内では銃器だけが妙に売れているという話が有りましたが、てっきり人種差別の暗い歴史を思い出した連中が「万が一」を考えて武装し始めているのかと思っていましたが、オバマ候補の公約が原因だったのですなあ。8歳のガキンチョでも器用に銃を扱って大人二人を連続して射殺できるような国ですから、とても日本人からは想像も出来ない感性を持つ人が多いようです。自分の身は自分でしっかり護るのが鉄則とされている国ですから、「念のため」に家の何処かに拳銃の一丁や二丁は置いている場合が多いのは米国で少し暮らした経験のある人なら分かっている事ではありますが……。


銃規制についてオバマ氏はこれまでに、購入者の身元確認強化を挙げているほか、「常識的な基準」を設置したいと述べている。これに対し、銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)は、「オバマ氏は銃器類に課税する考えを支持している」と強く反発している。

■出ました!ライフル協会!民兵組織に関する修正憲法の一文を意図的に拡大解釈して世界一の銃社会を作り上げている組織。マイケル・ムーアの出世作となった『ボーリング・フォー・コロンバイン』で当時の会長だったチャールトン・ヘストンが晩節を汚す遺影を残してしまったのでも有名であります。羊飼いの杖を持っているモーゼさながらに、ライフル銃を掲げて吠えていた姿も記録に残ってしまいましたなあ。


一方、米連邦捜査局(FBI)によると、11月3日から9日までの1週間に寄せられた、銃器購入者の身元確認や過去調査を実施するよう求める要望は、37万4000件に達したという。この数は昨年同期から比べて49%増で、多発する銃犯罪を多くの米国民が憂慮しているようだ。
11月12日 CNNニュース

■今年のハロウィーンでの少年が射殺されたというのに、どうしても銃を手元に置いておかないと不安な人が多いようです。銃の規制と言っても所持を禁止する事などは思いもよらず、単なる身元確認を購入者に求めるだけでも大騒ぎであります。まあ、日本の銃規制も穴だらけだと分かってしまったので、平和な日本を過大に誇るわけにも行かないのですが……。何にしても「大統領暗殺」などという巨大な活字が一面に掲載された新聞などは見たくないと願うばかりで、どうしても暗殺犯人になりたい!という志願者が出て来ないように祈りましょう。