旅限無(りょげむ)

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テレビ界の岐路 其の壱

2008-11-14 13:47:24 | マスメディア
■米国発の金融危機は「100年に1度」の暴風なのだそうですが、日々流れて来るニュースの中には100年に1度どころか歴史上に例のないまったく新しい事態のタネがたくさん潜んでいるような気がする昨今であります。カネ余りから熱狂的な投機が始まって訳の分からない物の価値が急騰し、皆が夢から覚めて正気に戻ったら一夜にして紙くずがゴミになってしまう経済現象は、決して珍しいものではなく、大なり小なり何度も繰り返されたことであります。結局は売り買い関係の変化ですから、何かを勘違いした人が変な物に法外な値段を付けて売り、それを買う人がだんだん増えて来れば我も我もと訳も分からず追随する群が巨大化して行き、最初に走り出して途中で降りた極僅かな者だけが大儲け、残された多くの追随者は悪夢だったと後悔することの繰り返し。

■情報化社会、マスメディアの発達によって玉石混交の情報が大量に流される時代になりますと、誰かが意図的に変な物を流行らせて一儲けしようとすれば、一時的にも奇怪なブームが起きるものです。全国ネットのテレビ放送で「町の声」だと紹介するのは決まって新橋駅周辺の一杯機嫌で帰宅するサラリーマンだったり、大流行の兆し!と騒ぎ立てる場所も東京都内の極限られた狭い場所で、そこに集まったのか誰かに集められたか分からない人達の映像が垂れ流しされているようですから、そんな偏った情報で時代を判断したり未来を予測したりしても下手な占いと大して変わらない当てずっぽうにしかならないのではないでしょうか?

■簡単には扱えない巨大な変化が、自動車文化、通信機器、エネルギーや食糧の生産現場で起きているのですが、その全貌を正確に捉えて報道するのは不可能のようです。訳知り顔に「事情通」や「専門家」を自称する人達が書き散らす予測本が、ブックオフの100円コーナーで晒し者になっている風景にも馴れてしまうと、いよいよ報道メディアに対する信頼は薄くなって行くのでしょうなあ。中にはそんな受け手の変化に対して開き直って、単なる埋め草番組を大量に製作して放送し続けるテレビ局がちょっとばかり視聴率を稼ぐと、あっと言う間に各局の番組編成が横並びになって、新聞のテレビ欄は金太郎アメ状態になるわけです。

■テレビの出現は確かに世界を激変させましたが、IT技術が発達して来ると「テレビの終わり」が実しやかに語られるようになりまして、報道と娯楽を提供する仕事が議論の場を提供するようにもなり、双方向性番組を作って視聴者をもっと強くテレビに引き込もうとする動きも目立って来たようです。そうした表の顔の裏側には「宣伝業」としての本性が隠されているわけですが、「新発売」という言葉が輝いていた高度成長期ならば、テレビ媒体のCM枠は完全に売り手市場になるのは当然で、そんな時代が去って生産者側に「新発売」が無くなり、改良品や復刻品が多くなれば広告したい相手も少なくなって、無断に全世帯を相手に莫大な広告宣伝費を使うことも無くなって行くのでしょうなあ。


今月7日に亡くなったニュースキャスターの筑紫哲也さん(享年73)がレギュラー出演していたTBS系「ニュース23」(月~木曜曜午後11時、金曜午後11時30分)が、来年3月いっぱいで終了することが13日、分かった。午後11時台は30分のストレートニュースに縮小するが、代わりに午後6時から2時間の報道情報番組を編成する予定。ニュース番組をゴールデン帯に再編成することで、「報道のTBSS」の看板を復活させるつもりだ。

■この話は最新号の『週刊新潮』にも取り上げられていたので、驚きもしませんが、意地の悪い人の中には「やっと死んだか、TBS」などと笑っている人も居るかも?それは兎も角、亡くなった人を蔑んだり悪しざまに言うのはタブーとされる独特のホトケ文化を持つ日本ですから、筑紫哲也さんを送る声は「偉大なジャーナリスト」「新聞とテレビを融合させた先駆者」など、中にはちょっと褒め過ぎかも?と思えるような賛辞が並びます。人の死を惜しみ遺徳を偲ぶのは美徳とするべきでしょうが、こうした文化も行き過ぎると極悪非道の悪ガキが逮捕されたりすると、現場で集められる「近所の声」が揃って「良い子だった」「やさしい子だった」と判で捺した様に犯人を庇う内容になってしまうような事も起きますなあ。

■筑紫哲也さんは活字と電波を駆使して多くの仕事をした方ですから、テレビがアナログ技術で最後の可能性を使い切った時代の象徴的な人物であったのかも知れません。でも、誰も完全無欠であることは出来ませんから、メディア界でも言論界でも、筑紫さんの報道姿勢に疑問や批判の声があったのは事実です。でも、死者を送るときは黙って合掌するのが礼儀と言うものでしょう。


……今年4月、「筑紫哲也 ニュース23」から「ニュース23」にリニューアル。その1年後の来年3月で同番組が打ち切られることになった。筑紫さんが引退する前から番組終了は社内で検討されていた。全盛期は2ケタ台も記録していた平均視聴率も、先月は平均6・9%(関東地区)だった。……平日の午後6時から午後8時までの2時間を、報道情報番組に編成する準備を進めており、「ニュース23」のキャスターの後藤謙次氏(59)が“異動”する予定だ。……「報道のTBS」をアピールしたい意向のようだ。膳場貴子キャスター(33)は、そのまま午後11時に30分枠で新設されるニュース番組を任される……。

■あの番組が始まった時は、個人名が番組の名前になるのか?!と驚いたり違和感を持ったりした人が多かったようですが、かえって好き嫌いがはっきりするので観ない人は絶対に観ないし、好んでいる人は欠かさず観るような棲み分けが出来たようです。一時、民放各局がニュース番組を競って作ったものですが、いつの間にやらバラエティーと称する正体不明のごった煮暇潰し番組に変わって行ったのでした。一時代を画したキャスターの皆さんは、その後もラジオや別の番組に移って活躍し続けているようなので、それにすっかり甘え切ったテレビ界は後進を育てることを忘れてしまったのでした。苦しい時のNHK頼み、とばかりに民放テレビの電波が届かない所でも顔が売れているNHKアナウンサーを札束を積んで引っ張り、形振り構わず視聴率を上げようとしたものです。まるで讀賣巨人軍みたいに……。