旅限無(りょげむ)

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ソマリア沖海戦 其の六

2008-11-26 09:35:03 | 外交・世界情勢全般
■金融危機への対応を話し合うのが主要課題だったAPECの議題にさえも含まれた海賊問題でしたが、バブル崩壊の(失敗)体験を恥も忘れて得々と語ろうと勇んで出かけた麻生コロコロ首相でしたが、殊、軍事関連ともなると単なるお飾り、参加することに意義がある、枯れ木も山の賑わい状態になってしまったようです。それは素晴らしいことだ!と喜ぶ人も日本には多いのか、マスコミの取り上げ方もこの問題に関しては他人事みたいな感じで実にあっさりしたものでした。平和と水ほど命懸けで守らなければならない物だという現実がすぐ近くまで迫っているというのに……。勿論、石油と食糧も大切ですが、売買の対象にならないほど安全と水は格別に重要な物なのであります。

ソマリア近海で多発する海賊行為に、日本としての対応策を練ろうと、都内で「ソマリア沖海賊対策緊急会議」(主催・日本財団、海洋政策研究財団)が開催され、中東・欧州方面と日本を結ぶシーレーンと日本船舶の安全確保を図るため、海上自衛隊艦艇の早急な派遣などを求める提言をまとめた。……政情不安などから収入を絶たれた漁民らが武装、海賊になっており、今年9月までに、昨年1年間の約1・5倍に達する63件が発生している。……すでに、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)が船舶の護衛を実施。ロシア、マレーシアなども海軍の艦艇を派遣している。

■アフガニスタンでの対テロ戦争支援を目的とするインド洋上での給油活動も海上テロの危険に晒される危険な任務ですが、戦闘自体はアフガニスタンという内陸国で行われているので、文字通りの後方支援というイメージが保たれているようです。しかし、既にインド海軍が海賊の母船を血祭りに上げたソマリア沖となりますと、万が一、給油活動の範囲を広げて海賊退治に協力しようと法改正などを済ませたとしますと、給油艦の目の前で砲撃銃撃戦が展開される事も想定せねばなりません。その時に給油艦を護衛するために派遣されているイージス艦が身動き取れずに傍観しているようなら国際信義の上からも大問題になる可能性もあるでしょう。

■無料で給油して上げるから日本の海上自衛隊を守って下さいなどと、訳の分からない事をお願いするくらくらいなら、足手まといにならないように早々と不参加を表明しておいた方が良いかも知れませんなあ。こういう具体的な大問題が起こった時に限って、憲法9条が大好きな人達は沈黙してしまうのが気になりますなあ。海賊退治での集団的自衛権がどうしたこうしたと伝統的な?議論の堂々巡りを強いられるのは残念なことであります。


最近の状況について日本海難防止協会ロンドン事務所の若林邦芳所長は緊急会議で「海賊は身代金を奪うため人質に危害を与えなかったが、最近のケースでは、海賊側が船舶を護衛していた英軍艦艇に発砲してきた。海賊行為の質が変わりつつあり、人質の命も危うい」と指摘した。緊急会議では、ソマリア近海を通航する日本国籍船や日本人搭乗船を守るために、
(1)海上自衛隊艦艇の派遣を速やかに実施する
(2)海難救助や海賊船への立ち入り検査などのため、自衛隊法の「海上における警備行動」を発令し適切に対処する
(3)海賊船への威嚇射撃を可能にする特別法を制定する-ことを求める提言がまとめられた。
11月17日 産経ニュース

■現在の法制度で認められそうな、ぎりぎりのラインを踏まえての提案ですから、あっと言う間にまとまりますなあ。誰が書いても似たような項目しか並べられないでしょう。(1)の「速やかに」の文言には「すでに遅過ぎるけれど」という忸怩たる思いが込められているのでしょうが、マスコミから吹き出す無理を承知の理想論やら日和見先送り意見やら野党から仕掛けられる無責任な水掛け論に邪魔されて、「速やかに」派遣するのはほぼ不可能でしょう。

■(2)の「適切に対処」という玉虫色の作文技法が混入しているために、派遣された人達の手足を縛ることになるでしょう。携行する武器と自衛権発動の限界など、またまた神学論争が始まるのは必定で、下手をすると護衛艦を派遣しても良いが弾薬とミサイルは降ろして空船で行け!などと言い出す者が出て来るかも?(3)などは間接的な殺人犯罪に当たるかも知れませんぞ。「特別法」まで作っても許されるのが「威嚇射撃だけ」ならば、この決定事項は軍事機密でも何でもないのですから世界中に報道されて海賊達を大喜びさせるでしょうし、派遣される日本の艦艇は残酷な標的になってしまうことでしょう。

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