「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

老鶯や峡に眠れる化石竜 鈴木弘子 「滝」7月号<滝集>

2012-07-13 04:06:24 | 日記
夏を伝える鶯が鳴く。緑の濃い渓谷の透き通った水の流れ、
その飛沫を光らせる陽射し。そこに恐竜が眠る山肌が見えて
いる。旅の写生句なのでしょうね。老鶯という小さな存在が、
ジュラ紀の過酷な自然異変に絶滅した恐竜を象徴して今と昔
を繋げている。長い地球の歴史が思われる「眠れる」が効い
ていますね。(H)

青鷺の畦にふかれて雨意ひろぐ 三浦しん 「滝」7月号<滝集>

2012-07-12 04:21:15 | 日記
青鷺はサギ科の大型の鳥で、首と脚が長く全体が青灰色で
水田や沼で魚、蛙、泥鰌などを捕食する鳥で、一所にずっと
長く耐えて魚を狙っている。掲句は田圃の畦にその姿をみた
のでしょう。そして、その姿がいつもとは違うことに気が付
いた。風にふかれ首を縮めてじっとしている。春嵐の前兆と
して青鷺を捉え、いまにも降り出しそうな空に景が広がって
いく。田圃の水位調整を急ぐ作者が見えてきますね。(H)

竹林に日の動きけり雉の声 伊藤英子 「滝」7月号<滝集>

2012-07-11 05:16:49 | 日記
 竹林に風が起きる度に春の陽射しの帯が動く。雄雉が「け
ーんけーん」と鳴いて雌を呼んでいる。竹林という縦の線を
横切るようにその声が響いて来る。確かな雉の存在に、もし
かしたら「日の動きけり」としたのは、繁殖期の雄雉の目の
周りの赤い肉腫を垣間見たのかもしれないと思った。それを
太陽と断定したという仮説は当たらないだろうか。(H)

読経や大くまんばち飛び込み来 平賀良子 「滝」7月号<滝集>

2012-07-10 05:10:10 | 日記
 年忌の御法事でしょうか。「大くまんばち飛び込み来」の
臨場感が動画のように場面を伝えてきます。たくさん飾られ
た仏花を両脇に和尚さんが読経を上げる後ろ姿。飛び込んで
来た大きな蜂にざわざわしだす家族や親戚。熊ん蜂は体が2
センチ以上もあり翅音が強烈なために獰猛な印象ですが、ひ
たすら花を求めて飛び回る蜂です。仏花の蜜を吸いに来たの
でしょうね。危険はないのですが、やっぱり怖いですね。「南
無阿弥陀仏」が、みんな身を伏せて怖さを回避するために唱え
られているような面白さもありますね。(H)

餡パンの空洞亀の鳴きにけり 栗田昌子 「滝」7月号<滝集>

2012-07-09 04:30:24 | 日記
 餡パンを二つに割る。空洞が現れる。とても日常的なこと
である。なぜ餡パンには空洞が出来るのかと、かぶりついて
いる反対の手に残った方の餡ぱんを見ながら考えるでもなく
考えている。「亀鳴きにけり」と、情緒的な季語おかれて、
春の夕の心地が何やら餡パンを物憂い物に転化させて行く・
・・。と、書きながら「空洞から亀の声が聞こえる」と読む
面白さも捨てがたいですね。(H)