「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

棚田から白鳥の声夕迫る 今野紀美子 「滝」2月号<滝集>

2011-02-28 05:26:16 | 日記
 飛来した白鳥は沼や湖にいるイメージがあるが、実は日中、
田んぼにいることが多い。私の住んでいる所からそう遠くない
ところに、蕪栗沼も伊豆沼もあるので、田んぼに白鳥がいるこ
とに違和感はない。作者が見上げた棚田は遠目には雪が積んだ
ように見え、鳴き声がして白鳥と気付き驚いたのかもしれない。
「夕迫る」は、「そろそろ沼に帰らないと」と心配している作者
だろうか。鳴き交わしながら、夕焼けの空に次々に揚がってい
く白鳥も想像されて美しい。(H)

冬怒濤国道沿ひの一夜干 佐藤憲一 「滝」2月号<滝集>

2011-02-27 07:26:39 | 日記
 冬怒濤が聞こえる車窓に一夜干しのすだれがつづく。豊
な海からの自然の恵みと、国道という人工的な物が一緒に
書かれていることに「生活」を感じる。凍てた空気。岩を
も砕かんばかりの波音を思えば、日本海だろうか。寒さを
感じると同時に、人の暖かさや懐かしさを感じた。ああ海
が見たい。(H)

日脚信ぶ掃除ロボット床を這う 村上幸次 「滝」2月号<滝集>

2011-02-26 06:19:48 | 日記
 冬至が過ぎ、少しずつ日脚が伸びていく春待ちの感じが、
掃除ロボットという機器に託されたようで面白い。
 丸い円盤型の掃除ロボットがくるくると床を這っている。
障害物や段差はセンサーが認識するので、見張っている必要
はなく、掃除終了、又は電池がなくなると、自動で充電用ホ
ームベースに戻り、再び充電を開始する。四角い部屋を丸く
掃く感じが、私のようでつい目がとまった句だった。でも、
春の兆しは嬉しいが、一緒にいるのは掃除ロボット。少し寂し
さも含まれているのかもしれない。「日が長くなったな」と言
っても、ロボットは「そうね」と、言ってはくれない。(H)

石づくりの武人文官銀杏散る 鈴木清子 「滝」2月号<滝集>

2011-02-25 05:16:36 | 日記
 降り注ぐ黄金色に透けて古墳がある。その参道にも黄色い
葉がふり積み、石の武人や文官が立ちならんでいるのだろう。
作者は神々しい景色の中にいる。
 イチョウは人類の誕生以前に存在し、植物の原始的な並行
脈を今に残す樹であることは「季語」の解説には含まれない
のだが、「黄落」ではなく、「銀杏散る」としたことに、時空
を遡る道の存在が見えてならない。上五・中七のフレーズを
存分に語る季語だと思った。
 しばらく現実から離れ、私もこの美しい道をゆっくり古墳
に向かって歩いてゆきたい。(H)

しろがねの鶴首を恋ふ帰り花 遠藤玲子 「滝」2月号<滝集>

2011-02-24 05:26:55 | 日記
 小春日和の暖かい日がつづくと、季節外れの桜や桃の花が
咲くことがある。陽が銀色の首の長い花瓶に反射して美しい。
なんだかこの帰り花は暖かさに騙されて咲いたとは思えない。
もう一度あの花瓶に挿して綺麗と言って・・・。と意志をもっ
て咲いたように読める。俳句の「恋ふ」は、場面によってい
ろいろに働く。揚句は「一つの花瓶」と「一枝の帰り花」。そ
れをつないでいる「恋ふ」。うまく言えないけれど、一対であ
るべきはずのものどうしゆえに切実な感じを受ける。咲くに
はまだ早いのに、それを分かっていて、せめて遠くから花瓶
の姿なりとも見たかったのではないのだろうか。人が人を恋
ふように、銀の鶴首を恋ふ帰り花。なんだかとっても切ない。
(H)