「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

田仕舞や笑ひし皺の美しく 渡辺民子 「滝」12月号<滝集>

2015-12-26 05:16:37 | 日記
 加齢と共に。誰にでも皺は生ずるもの。同じ皺であるなら
ば、掲出句のように、美しくありたいものである。
 農家の秋の収穫を無事終えた。安堵と喜びを、顔の皺をも
って表現している。ただの皺ではない。健康的で美しい笑い
皺なのである。家族、親戚一同しんそこ笑いあっている。豊
作を喜ぶ雰囲気が十分に伝わってくる。
 食生活の変化している昨今。米の消費量が減少していると
いう。米は日本人の主食であることに変わりはない。できる
だけ米を食べたいものである。田園が失われなければ、とん
ぼうやかえるなどの生きものも守られ、生態系も維持される。
いつも農業の景を詠んでいる作者。日本の良き原風景が見え
てくるので、私は楽しみにして作者の句を読んでいる。これ
からも詠んでほしいものである。(庄子紀子)

掛大根ワルツ流るる集会所 加川則雄 「滝」12月号<滝集>

2015-12-25 04:57:17 | 日記
 掛大根は、日に白くかがやいていて、集会所からワルツが
流れて来る。
 集会所は、中高年の人々のサークル活動で、いつも賑やか
なのである。今日は社交ダンスの愛好会の集まりであろうク
リスマスに向けて、レッスンに余念がないのである。レパー
トリーの一つが、今日のワルツである。掛大根の間から聞こ
える、三拍子の調べがとても心地よいのである。
 掛大根にワルツの配合が妙であり、初冬のうららかな、郊
外の静かさが見える句。(庄子紀子)

躓きし石も史蹟や花木槿 横田みち子 「滝」12月号<滝集>

2015-12-24 04:18:34 | 日記
 作者は吟行で史蹟を訪ねた。壷の碑で有名な多賀城跡であ
る。古代多賀城の中枢でもある政庁跡も歴史の重みがある。
 作者は壷の碑を訪れ、古代の大路痕を古代人と同じように
歩いて政庁跡をたどった。見るもの、聞くもの、触れるもの
すべてが史蹟である。その貴重な歴史の中を歩いているうち
に自分も古代の人になっている。そう、夢遊病者のようにな
って歩いている。小さな石に躓いた。そうなのだこの石でさ
え史蹟の一つなのである。という確信が一句となった。大路
の道を上って行くと、木槿の花が頻りに咲いていた。
(鎌形清司)

秋麗の水面に映る薬科大 中井由美子 「滝」12月号<滝集>

2015-12-23 04:18:11 | 日記
 一億総ウォーキングの時代ともいわれている。森や公園な
どを歩いて、自然の移ろいを楽しんでいる人を多く見かける
ようになった。秋も深まってくると、湿度も下がり、何もか
もが透明になってくる。
 掲句、秋の真っただ中。大学のキャンパスの近くを散策。
湖沼の近くを歩いていると、秋の装いをした自然の木々が美
しく水面に映えている。よく見ると、大学のキャンパスも映
っている。風がないので自然のすべてが映っているのである。
「秋麗の」で、秋の日の一番美しい一瞬を切り取った句とな
った。(鎌形清司)


冷まじや一人のための兵馬俑 池添怜子 「滝」12月号<滝集>

2015-12-22 04:15:10 | 日記
 秦の始皇帝陵に等身大の士卒や軍馬などの兵馬俑が多数埋
納されていて、一九七四年に発見された。始皇帝の膨大な軍
団、兵馬俑が隊列を組んで地下に、二千二百年もの歳月を眠
っていたのである。
 掲出句「一人のため」の、長い沈黙の歳月を思う時、感無
量と同時に、すさまじさをも覚えるのである。「一人のため」
この表現は、説得力がある(庄子紀子)