「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

三人は気楽で半端牡蠣雑炊 長岡ゆう 「滝」3月号<瀑声集>

2014-03-31 04:08:57 | 日記
 三人旅はとても楽しい、しかし二人座席では一人離れる。
宿に行っても、ツインベットにエキストラベットを入れる煩
わしさがある。
 でも三人寄れば文殊の知恵と、どんな困難をもするりと躱
すことが出来て、三人旅は気楽で楽しいものである。
 「気楽で半端」のフレーズは親近感があり全く同感である。
「牡蠣雑炊」の季語がとても効いている。ふっくらとした牡
蠣の香りのよい雑炊を、ふうふうと吹きながら食べている光
景は、誠に気楽で幸せである。(今野紀美子)

手捻りの湯呑み重たき寒明忌 清野やす 「滝」3月号<瀑声集>

2014-03-30 04:23:44 | 日記
 手捻りは、轆轤や型を使わずに手で粘土を成形して作る陶
器ですから、質感からして重そうではあるのですが、湯呑と
いう毎日使っている物を重たいと感じているのですから、い
つもと違う気分なのでしょう。椿の句で有名な河東碧梧桐の
忌日が合わされて、散るという軽さをもたない椿の、落ちる
重さの程の憂鬱が見える句。カレンダーの2月1日の丸印の
下は「予約診療10時」とでも書いてあるのかも知れないで
すね。まだ寒くて、億劫な外出・・・。(H)

盃の底の浮世絵寒明くる 谷口加代 「滝」3月号<渓流集>

2014-03-29 04:45:17 | 日記
 浮世絵の美人の描かれた漆の盃であろうか、はたまた契り
を交わす時の盃であろうか。
 ともあれ見返り美人に見つめられて飲むお酒はさぞ美味し
いのではなかろうか、決して悪酔いなどは出来ませんね。
 お酒を嗜む作者も美人の彼女、なみなみつがれた盃の底に
写っていたのは、浮世絵の如き作者の顔であったのではなか
ろうか。盃に写る浮世絵を是非とも見たい焦燥にかられ、楽
しくなってきました。
 寒明くるが一層期待を高めてくれる句です。(今野紀美子)

鰭酒や席のはづれに恋敵 鈴木要一 「滝」3月号<渓流集>

2014-03-28 04:48:19 | 日記
フグの鰭を焙り、燗酒を注ぎ作る鰭酒。琥珀色に澄んだ鰭
酒に心地よく酔いが回って来た。
ふっと同じ酒席に気になる人が、何とそこには恋敵、とは
愉快な局面ではありませんか?
彼は女性に優しく紳士的、スマートな恋の手練手管、故に
恋敵とも楽しく酒を酌み交わす、度量の広さがあるのでしょ
うね。鰭酒と恋敵の取り合せの妙。(今野紀美子)

風花や硝煙匂ふ皮手甲 加藤信子 「滝」3月号<渓流集>

2014-03-27 04:24:54 | 日記
 スターターピストルが撃たれて競技が始まりました。マラ
ソンでしょうか、駅伝でしょうか。世界的には電子時計で計
るルールですから、街単位などで行われたヨーイドンのよう
ですね。「競技用紙雷」が使われて、それを間近に見ていた
のでしょう。皮手甲をした腕が風花の天に伸び硝煙をあげま
した。そんな景の切取が銃声の余韻を残しながら冬の空気感
を伝えて来ます。良いカメラアングルならぬ、句アングルだ
と思いました。(H)