「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

アルパカに一目惚れかな花粉症 橋浦幸恵 「滝」5月号<滝集>

2012-05-31 04:26:30 | 日記
 「アルパカに一目惚れ」はとってもよく分かります。笑っ
ているような貌や、のんびりした仕草がかわいいですね。花
粉症では大変ですね。花粉注意報が出ている中動物園にでも
行ったのでしょうか。多分気乗りのしないお出かけだったの
にアルパカに会ったとたんに「来てよかった」になったので
しょう。アルパカの縫い包みを抱えての帰宅になったのでは
ないでしょうか。(H)

三月やうまく泣けぬといふ少女 小林邦子 「滝」5月号<滝集>

2012-05-30 05:23:07 | 日記
 とても少女が心配になった。作者も同じ気持ちだったので
しょう。「三月や」は、震災から一年を代弁しているように思
った。うまく泣けない少女は、震災によって生活が一変した
のだろう。しばらく避難所で暮らしたのかもしれない。人の
心をおもんぱかり、空気をよみ、無意識に心に鍵を掛けてし
まったのだろうか。「泣けば家族が心配する。」そんな分別が
仇となっているのかもしれないし、悲しみを受け止めてくれ
るはずの家族を亡くしたのかもしれない。私にも泣けない少
女の頃があった。自分で思っている以上に心がダメージを受
けていたことを知るのは泣けた時。泣けるきっかけが早く来
ると良いですね。(H)

遺影の名読み上げられて卒業す 米澤恵美子 「滝」5月号<滝集>

2012-05-29 04:38:46 | 日記
 大津波に襲われた地域の卒業式なのですね。返事のかえっ
てこない遺影になってしまった子も名を呼ばれ一緒に卒業し
た。ここには悲しみがあるばかりだ。闘病しており、あらゆ
る手を尽くしても、助からなかった命なら、少しは心に折り
合いを付けることも出来る。しかし理不尽に奪われた命が、
遺影となって家族の胸にだかれている。無念さが真っ直ぐに
伝わってくる。微笑んでいる写真が見えて、すすり泣く声が
聞こえる。運よく助かった子供達も過酷な一年を過ごして迎
えた卒業式であり、胸がつまりますね。(H)

昭和の日牛乳瓶の紙の蓋 中井由美子 「滝」5月号<滝集>

2012-05-28 05:26:22 | 日記
 作者と私は一つしか年が違わないので、たぶん見えてくる
懐かしさは同じだろうと思う。給食を思い出す。牛乳瓶の蓋
を開けるのは結構難しかった。指で紙栓中心部を押し、ビン
の中へ強引に入れ込んで開けると必ずと言っていいほど牛乳
が飛び散ったし、爪先で紙栓のフチをめくり上げ、剥離した
部分を引っ張って開けるのは面倒だった。そういえば持ち手
のついた丸い輪の中に太い針のような物が付いていて、蓋に
突き刺して開ける道具があった。男子は蓋をメンコ代わりに
して遊んでいた。「昭和の日」は平成17年の祝日改正法によ
ってくわえられた祝日。戦前は天長節。昭和23年からは天皇
誕生日。平成からはみどりの日。と、戦争と平和のにおいが
する季語。ベストマッチの一句と思いました。(H)

野遊びや眠る赤子を渡さるる 中山 杏 「滝」5月号<滝集>

2012-05-27 05:26:46 | 日記
 春のやわらかな日差し、草の匂いや花の色、囀り、川音。
野遊びという欲張りな程に春を言う季語。家族で来ているの
でしょうね。大きめのシートには手づくりのお弁当が入った
バスケット、赤ちゃんのミルクや着替えの入った大きなバッ
クが置かれている。眠ってしまった赤ちゃんを預けられた作
者は、二つ三つ離れた上の子が遊具のない遊びに歓声をあげ
て駆け回る姿を見ているのでしょう。「家族の至福の時」を
眠る赤子が語らずして語る素敵な句ですね。(H)