「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

妙齢の袂や鮎のうねり串 今野紀美子 「滝」8月号<滝集>

2013-08-31 05:33:12 | 日記
 「妙齢」は、女性の若くて美しい年代をいいます。結婚適
齢期をさすこともあるそうです。そんな年頃の女性が肘をは
って、塩焼きの鮎にかぶりついている姿を「袂」が語る巧み
な句です。鮎の躍動感をあらわすために打たれるうねり串の
鰭の化粧塩など思うと、藍色の浴衣が想像されます。緑の中
の川音も涼やかで五感を満たす句とも思いました。ちなみに
鮎の丸かじりは不作法にはあたらず、一番おいしい食べ方だ
そうです。(H)

妙齢の袂や鮎のうねり串 今野紀美子 「滝」8月号<滝集>

2013-08-30 04:41:47 | 日記
 紗か絽の夏の単衣をさらりと着こなす若い女性が緑の中に
立っている。幼児の鼓動のような清流の音、美しい翡翠色の
かわせみの飛翔も見られる。溌剌として行動的な作者を思え
ばグループで渓流下りを楽しんだ折の吟行句であろう。岩魚
や山女、香り高い鮎を焼いているお休み処。袂に手をあてが
ってうねり串の鮎を食べる彼女に視線が行く。有りの儘を詠
んだ素直な写生句だが読者に清々しい山間渓流の風をくれる。
一年の命の鮎。美味しくて尊い。至福の時間が流れる。(あいざわ静子)

大学の時計三時やあめんぼう 鴨 睦子 「滝」8月号<滝集>

2013-08-29 04:58:05 | 日記
 三時を指している大学の時計から、あめんぼうのいる水辺
に場面が転換する夏の景。そして、三時が「あめんぼう」を
「飴ん棒」という、ちゃんと辞書に載っている駄菓子に姿を
変える。そこには子供の姿も見えてきて、わいわい賑やか。
スイッと時空を移動するようなあめんぼうの動きも一役買っ
て、何だか子育ての頃に戻ったような楽しい錯覚を生む句だ
と思いました。(H)


ラムネ壜の青き感触犀の角 鈴木要一 「滝」8月号<渓流集>

2013-08-28 04:06:56 | 日記
 「犀の角」が小骨のようにひっかかった。犀は誰もが知っ
ているがその角とは?検索した。犀は乱獲されて絶滅寸前の
危機に瀕している。角はアジアでは太古から漢方薬として珍
重されてきたが、今やアフリカ犀の角は金やプラチナより高
価なコカインに匹敵。医学的な効果は立証されていないにも
拘わらず<効く>という<禁断の実>への人間の執着である。
「犀の角のようにただ独り歩め」(仏陀の言葉・岩波文庫)と
説く如く犀の角はサバンナに在るべきなのだ。さて、ラムネ
は男がラッパ飲みして似合うものである。喉仏さながらのビ
ー玉が入っている。作者はラムネ壜に少年めいたいささかの
昂ぶりをもらい束の間の夏祭を愉しんだのだろう。(あいざわ静子)