「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

帚目の弧の緩やかにこぼれ萩 鎌形清司

2018-11-27 04:57:54 | 日記
 帚目の緩やかな弧は、枯山水だろうか、砂利に波模様をほどこすことを「砂紋を描く」とか、「箒目を付ける」と言う。周囲に植物が植えてあるのをあまり見ないので、庭園という大きさの全景に「こぼれ萩」の風情が読み込まれたようだ。梅や桜を愛でるのと同じように、秋は萩が咲くのを楽しみにしていた万葉の時代に、暫し思いを馳せるのに充分な景色を持った句だ。(博子)

メロディーに合はぬ体操雁渡し 及川源作

2018-11-25 05:29:35 | 日記
 「メロディー」はラジオ体操でしょうか。いつものように体操を始めたが、動きが音楽に合っていない。「雁渡し」という北風に、体の強張りを託したようです。朝夕はめっきり冷え込んできて、冬の気配を感じる季語が旨く使われたと思いました。「深呼吸で~す。深く息を吸って、吐きま~す。ごう、ろく、しち、はち」と終わるラジオ体操第一。そのころには温まった体に吸い込んだ雁渡しの冷たさが気持ちよかったのかも知れませんね。(博子)

秋の夜や二寸づつ織る色見本 米澤惠美子

2018-11-23 08:36:55 | 日記
 「秋の夜」は、涼しさと長さを纏った静かな時間。「二寸」という単位から着物や帯のような「和」の物を思った。一人でコツコツする作業が詠まれることが多く、卓上型の織機でしょうか、組紐かも知れません。「色見本」という色彩の美しさと、カタカタと音をさせて使う時間が詠まれて、目も耳も楽しい。それは作者の楽しさを感じることでもある。夢中になっていた手を止めると、虫の声が「そろそろ寝たら」と深む夜に語りかけてくるようだ。そんな女性らしい手仕事に憧れるが、三時半とか四時に起きる私も夜長の範囲内に俳句にかかわる時間を過ごす。「これもまた良し」そういうこと事にしておこう。(博子)

生きのびしはホモサピエンス月祀る 中井由美子

2018-11-23 08:29:42 | 日記
 有人の星である地球と無人の星である月。700万年に及ぶ人類史。その歴史はホモ・サピエンス以外の人類の“絶滅の歴史”でもある。ホモ・サピエンスだけが生き延びた事実だけを記し、人間の感情と行動を含ませて「月祀る」が配された。それは、「無人だからこそ美しい」という事にも通じてくるのだろう。地球は、人間が住む故に環境汚染や戦争やテロなど良くないことも生じてしまうが「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」と、人間の、自然の中における存在としてのか弱さと、思考する存在としての偉大さをパスカルは言い表した。人間が生じさせた良くない事象を責任をもって解決するのもまた人間であるはずだ。
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が共に生きた氷河期も月は崇められていたのかも知れない。
テクノロジーが進化し、月の画像がどんどん鮮明になっていくが月を踏んだ印に立てて来た国旗を見ることなど私は望まない。肉眼で美しい月を愛でる。それで良い・・・。(博子)


檀の実割れたるあとの睡りぐせ 谷口加代

2018-11-20 20:08:49 | 日記
 脱帽の写生句。こんなふうに目が使えて、心に落とし込んで言葉に変換出来たらと、不勉強を棚に上げて感性というものの不平等さを思う。檀の薄桃色の実が張り詰め、割れるまでの緊張感を察知したからこその、割れて、真っ赤な実を下げられた安堵と解放が「睡り」という、いねむりを思わせる無防備な状態の表現になったのだろう。そして頭の隅になぜか「まどろみ」という「睡り」の感覚が思われて、ネットを繰ると「実」なのに「艶めき」「あなたの魅力を心に刻む」「真心」などの花言葉あって、肌を重ねた比喩として詠まれたようにも思われた。(博子)