「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

彼岸会や壁の中より波の音 堀籠政彦 「滝」5月号<滝集>

2014-05-31 04:50:33 | 日記
 壁の中より波の音、これは震災で残った建物の壁なのでし
ょうか。作者は塩釜の方で、お知り合い、縁つづきの方も多
いことでしょう。彼岸会で、お坊さんのお経を聴いていると、
三年前の事が思い出され、ふいに壁の中から、あの時のゴー
ツと高波の音が恐怖におそわれます。実際に今は大丈夫なの
ですが、簡単には心は癒されませんね。親や子を亡くした方
は生きて行く事も辛い事でしょう。時間はかかりますね。
 壁の中に波の音があると言うのが、東北の人なら、実感と
して、強い口調で伝わって臨場感があります。(芳賀翅子)


杉の木の美しき年輪春動く 畑中伴子 「滝」5月号<滝集>

2014-05-30 04:19:37 | 日記
 開花期には花粉症の原因になり嫌われる杉ですが、年輪が
美しく、古来から住宅の柱材として重宝され、曲物などに使
用され、曲げわっぱはその代表的な物と思いますが、この年
輪は、まだ乾ききっていない、生きている感触を残す切株か
と思います。その断面がはね返している日差しに、まだ枯れ
色の森に漲る生命力を感じ取っての「春動く」かと、思いま
した。季語を信じて託した句ですね。(H)

笑ひたる喇叭水仙ワルツかな 佐藤珱子 「滝」5月号<滝集>

2014-05-29 03:04:23 | 日記
 昔のワルツは男女が抱きあって円を描きながら踊り、あま
りにも官能的な踊りだったため、一七六〇年オーストリア・
バイエルンで禁止された事もあります。円を描きながら跳ん
だり踏みならしたりする踊りは中世の頃からあり、それは常
に弾圧を受けていました。モーツアルトさえこの踊りを社会
の下層階級のものと考えていたとか。しかし、ワルツが流布
したのはフランス革命、19世紀の社会の変化と関係していま
す。一八一四・一五ウィーン会議以後ヨーロッパ全土、あら
ゆる階層に受け入れられる事なります、CDから、ショパン
の「子犬のワルツ」が流れています。喇叭水仙が卓上にあり、
音楽好きの作者は、おいしい紅茶を飲みながら至福の時間。
水仙が笑って見えるのは、何か良い事があったのかも、ボー
ルが弾んでいるような楽しい俳句です。(芳賀翅子)

春待つや舞扇より水の音 鈴木清子 「滝」5月号<滝集>

2014-05-28 04:23:51 | 日記
美しい句ですね。舞扇は能扇同様、室町時代以降に発展し
た舞踏用の紙扇で芸術的工芸品の域に達し、飾り扇としても
用いられることを「待春や」ではなく「春待つや」としたこ
とから思われました。雲や霞、水などの図柄が多い舞扇です。
まだ寒さが緩む気配を日脚の長くなった事に感じるくらいの
頃。扇から雪解水の音を感じ取ったかに思われる作品に作者
の感性の洗練を思いました。(H)

いちまいの空の捲れる山火かな 平川みどり 「滝」5月号<滝集>

2014-05-27 04:38:35 | 日記
 山火は山焼きのことで、春の初めに新しい草の芽がよく出
るように山の枯草を焼くこと。山焼きの煙がもうもうと上が
る空が「捲れる」ようになったとの感受に拍手です。
 九州はの方は山焼きが真っ盛りなのでしょう。雄大な景を
見て気分すっきり、私も見たいです。(芳賀翅子)