「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

早朝を励ましてゐる夏鶯 日野紀恵子 「滝」7月号<滝集>

2014-07-31 04:11:03 | 日記
 夏鶯が早朝を励ましているとは、なんと大らかな表現であ
ることか。早朝という言葉は具体的に何時、という枠を設け
ない表現として使われている。目覚めたばかりの床の中で、
やや遠く聞こえるようになった鶯の声にぐんぐん明るさを増
していく空。そこに夏を感じての一句。爽快な作者の目覚め
と通じ、家族を起こさないように物音を控えながら靴を履い
ている後ろ姿が見えるようです。(H)

夕ざれの風はむらさき桐の花 早川のりこ 「滝」7月号<滝集>

2014-07-30 04:09:21 | 日記
 「映像」と言う言葉が過った。美しさを伝えるのに最も好
ましい手段としての可能性としてであるが、その景をラジオ
のリポーターが課せられたら、果たしてこの景を伝えること
が可能だろうか。と、まだ春の季感が残る頃に咲く遠望の桐
の花のけむっているような薄紫の花が夕方の風に揺れている
様子が過不足なく見えてくる句に惹かれた。(H)

大滝や荒ぶる武者のやうにあり あいざわ静子 「滝」7月号<滝集>

2014-07-29 03:25:47 | 日記
 大滝の名に負けない豪快な水量が見えるが、以前訪れた時
と違う表情を見せる滝を直喩によって表現した句と思う。そ
の荒々しさは、万緑の中に、軍勢の一途な忠誠が発する音の
塊のようなこゑをあげて眼前にある。その雄々しさも又、作
者には好ましかったのであろう。(H)


老鶯や築港跡の赤煉瓦 及川源作 「滝」7月号<滝集>

2014-07-28 04:22:25 | 日記
 野蒜築港跡の色褪せた赤煉瓦が夏の鶯と良く響き合う句。
勝手な読みだが、当時の築港にかけた夢や希望が、震災復興
工事に抱く作者の存念と通じるのではないかと思った。航空
自衛隊松島基地のブルーインパルスによるスモークが横切る
空に、日本の国力を思い、実は春よりも、夏の山河の生気と
負けないほど高らかな鳴声だとう夏の鶯の営巣の時期に、人
の暮らしの安穏を願う気持ちが込められたような気がした。
(H)

雨垂れの溜まりし樽や桜桃忌 中井由美子 「滝」7月号<滝集>

2014-07-27 04:08:56 | 日記
 東日本大震災で、ライフラインがことごとく破壊された。
電気は、比較的早く復旧したが、水道は、なかなか復旧に時
間がかかった。飲料水は、何とか確保出来たが、水洗トイレ
の水をどのようにして確保するかに頭を痛めた。我が家では、
2階の雨樋にゴムホースをつなぎ、雪解水などを、ポリバケ
ツに溜めて使った。今でも、植木の水やりなどに使っている。
 桜桃忌は、幅の広い句材と合せることが出来る。この句は、
体験のなかからくる実感のようなものが充満している。生活
の知恵から生れた句ともいえる。
 「桜桃忌」は、「人間失格」など、数々の名作を残した、
小説家太宰治の忌日。(及川源作)