「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

鞘堂をさらに覆ひぬ冬の雲 鈴木三山

2021-01-29 04:06:51 | 日記
「鞘堂」に中尊寺の金色堂を一番に思ったが、背の高い樹々に囲まれた中の階段に誘われ、金色堂ばかりに目が行き、空をあまり意識する人は少ないのではないかと思った。もっと広い空と視野におさまる「鞘堂」として多賀城の壺の碑を思った。毎年「壺の碑」全国俳句大会が開催され何度か行ったことがある。「冬の雲」は暗く陰鬱なものと、晴れた日の美しく晴朗なものとがあるが、掲句の「さらに覆ひぬ」はどちらしょう。令和2年は新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、当日の部(会場を利用した大会)については中止になってしまった事などを思えば、前者でしょうか。(博子)
※瀬音集作家への昇格おめでとうご゛います。

ひた走るトロッコ鶴瓶落としかな 鈴木幸子

2021-01-27 05:44:18 | 日記
本物のトロッコを見たことはないけれど、鉱山のトロッコを思った。秋の太陽がみるみる山陰に沈んでいく。仕事終わりの鉱夫のトロッコも又、里に下りていく。井戸から水をくみ上げる鶴瓶という道具の縄と、電気の無い鉱山でトロッコを動かすウインチワイヤーが、水を運ぶものと、人を運ぶものとして、「急く」を共有するような詠みが景色を支えて、そこに住む人々の暮らしまで見えるような句だと思った。(博子)

坪庭の枯葉からかふ天狗風 池田智惠子

2021-01-25 05:08:57 | 日記
四季折々の草木や花などを植えることで、四季の移り変わりを目で楽しむことができる坪庭。周りを塀や垣根で囲われた小規模な和風の庭と思っていたので、「天狗風」、来る?、と思ったが、坪庭はもともと風通しの悪い京町家で風の通り道を作ることと、採光の機能を持たせてつくられていたのだそうだ。「枯葉からかふ天狗風」が一気に見えて来る。居るのは日本料理店の坪庭だろうか、秋の食材で作られた美味しそうな料理も見えて来る。コロナ禍で出掛けられない今を思えば、ご自宅の坪庭とも思えるが、気分だけでも出掛けた気になれた句だった。(博子)

放射能測定中です神の留守 齋藤善則 

2021-01-23 06:02:04 | 日記
2011年3月11日に起きた巨大地震と大津波により、世界最悪レベルの福島第一原発事故につながったあの日からもうすぐ10年。「放射能測定中です」の口語に驚きながら、帰宅困難区域のがらんとした空気感と、季語の情感に含まれる「不安」が呼応する。私には、留守を守る竈神が「竈はいつから使えますかねぇ」。恵比寿神が「商売繁盛の腕が鳴って仕方がないんだが・・・」と、今も続く除染作業を眺めて溜息を付きあっているように思えた。口語の部分は放射能値を知らせる電光掲示板を流れる文字だろうか。全国の八百万の神様が出雲で十年知恵を出し合っても解決できない事案。政府に委ねるしかないのだが、質問すれば音声ガイダンスが「放射能測定中です」とのみ答えるような虚しさが過りもする句だった。(博子)
※齋藤善則さん・齋藤伸光さん、第27回滝奨励賞おめでとうございます。 


秋深し南部杜氏の旅支度 小林俊一

2021-01-21 05:01:55 | 日記
「㈱一ノ蔵」という日本酒の蔵元の建物が見える所に住んでいる。昭和48年に4社の経営統合で誕生した会社で、その一社の蔵元さんと祖父が懇意にしていて、田圃の刈取りが終わった頃、杜氏さんが来ていたのを思い出した。南部杜氏さんかどうかは定かでないけれど「旅支度」が見えるような句でした。(博子)