「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

大らかに廻る地軸や大西日 赤間 学

2020-10-24 18:32:45 | 日記
地球はその誕生以来、北極点と南極点を結ぶ「地軸」を中心に自転を続けている。地軸は公転軌道に対して垂直ではなく、約23.4度傾いている。この傾きによって太陽の当たる時間が変化する。西日が照り出す時間帯は、一日のうちでも気温の高さと湿度の低さがピークの時間帯で、そこから更に照らされる事で、より長時間に亘って気温の上昇と乾燥を招き嫌われるが、何だかそれを楽しんでいるようで「大らか」の言葉を作者に送りたいような句。そして、宮城県芸術協会・2020年度文芸賞おめでとうございます。(博子)

青田波一本杉の幣ひかる 庄子紀子

2020-10-21 04:27:13 | 日記
風が吹き渡る青田と、杉のご神木。白い幣もひらひらと揺れて光を返している。田中の鎮守の森を思ってみたが、それなら森全体とか鳥居とかが詠まれそうだし、光よりは緑陰の感じがする。でも何処かにあるのでしょうね、田園を見下ろすようにそそり立つ杉の巨木のご神木が・・・。横軸のたおやかと、縦軸の益荒が見事な句。(博子)

梅雨明けや藍の刺子のコースター 中井由美子

2020-10-19 06:06:07 | 日記
季語と物だけの句。鬱陶しい梅雨がやっと明けた。殊更、今年は西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨。7月4日から7日にかけて九州で記録的な大雨。球磨川など大河川での氾濫が相次ぎ、人的被害や物的被害が多発し、気象庁が「令和2年7月豪雨」と名称を定めたほどであった。広い地域への視野から、藍と言う暗さと、白い糸のコントラストが美しい「コースター」へと視点は移る。コースターは、冷たい飲みものをそそぐと、グラスなどに発生する水滴を吸収してくれるもの。どちらも「水」を介していて、「藍の刺子」は「明暗」の表現として詠み込まれたのだろうと思うが、その明暗は、コロナ禍で梅雨が明けたと言っても容易に外出できず、手仕事を続ける作者とも思える。季語の野外空間から、家の中の小さな物に絞られて、溜息が聞こえるような句でもあった。(博子)

エプロンの結び目かたき姫女苑 横田みち子

2020-10-17 05:46:40 | 日記
姫女苑に語らせた母親像。そんなふうに思った一読目だったが。エプロンは様々な職業で制服として用いられており、「仕事」が見えて来る。一般的に使用されるエプロンは布製だが、布製でも保育士さんのエプロンにはパンダやアンパンマンのアップリケが施されてあったり、水産物を扱う人は、濡れないようにゴムやビニール製。放射線技師さんは被爆を避ける鉛が縫い込まれた重いエプロンをしている。「結び目かたき」から感じる意志を思えば、新型コロナウイルス禍の看護師さんかもしれない。白くて小さい、素朴で可憐な「姫女苑」だが、野の花としての強さもある。そんな仕事に、感謝と尊敬を込めた「姫女苑」。私からもありがとうございます。(博子)


青年の呟きひとつ稲熟るる 鈴木三山

2020-10-15 04:35:14 | 日記
呟きは、稲穂に触れながら「うん、よし」そんな感じでしょうか。個人的には「青年」の文字が眩しい。田植と稲刈の時だけ手伝いに来る農家の息子ではなく。志を持ち、稲作に挑む若者を思った。農機店をしているので稲作農家の高齢化率の高さと、農業機械の古さにはらはらする。稲作では暮しが成り立たず、儲からないから「継げ」とは言えない親と、親の苦労を見て育ち、給料取りになって生活を支えることを選ぶ子。それが当たり前のようになっている。この青年は稲穂をかさかさ鳴らして穂の重みを確かめていたのだろう。そして視線は圃場全体に・・・。作者に稲作の相談に来ていた青年かとも思う。作者の地域は昨年の台風19号で大変な被害のあったところでもあり、「稲熟るる」には特別な思いもあるのでしよう。スマート農業と言う、ロボット技術やICT(情報通信技術)、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)等の先端技術を活用し、超省力化や生産物の品質向上を可能にする新しい農業の可能性も見えてくるような青年の存在が嬉しい。(博子)