「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

三伏や冥王星に山いくつ 渡辺登美子 「滝」俳句9月号<滝集>

2015-09-23 04:17:00 | 日記
理科の高校受験対策として、水、金、地、火、木、土、天、
海、冥と太陽系の惑星の頭文字を並べて暗記した滝の会員も
いると思う。この句の冥王星は太陽系で一番遠く外れた第9
の惑星であったが、月よりも小さい等の理由で2006年の
国際天文学連合の総会で準惑星に区分された天体である。
 この句は、米航空宇宙局(NASA)が今年七月無人探査
機ニューホライズンの観測で、人類史上初めて冥王星に最接
近し画像を送ってきたことを詠んだ句である。氷の山や平原
が重なり未知な部分が多い。作者の宇宙に対する好奇心旺盛
な姿に感心させられた。尚、漫画家松本零士の「宇宙戦艦ヤ
マト」「銀河鉄道999」の作品では、この冥王星が舞台に
なっており、天文愛好者には人気のある天体の一つでもある。
(梅森 翔)


予報士の手柄のやうに梅雨明くる 中山 杏「滝」 俳句9月号<滝集>

2015-09-22 04:25:09 | 日記
 気象予報士の「これまで経験したこのない大雨が予想され
ますので充分警戒してください。」との異常気象を知らせる
アナンスが最近多くなり、観測史上の記録を更新したとのニ
ュースが新聞紙上やテレビ画面を賑わしている。
 一昔前には、当たらない代表格の一つとして天気予報があ
った。しかし最近の予報はよく当たるようになった。気象衛
星から送られたデーターを科学的に分析し、その成果が実を
結び、確率が高くなったからであろう。気象予報士の資格を
得るには、平成6年度から年2回、気象予報士試験があり国
家資格が必要となった。NHK、民放の放送局では専属の気
象予報士がおり、テレビでもお馴染みの顔となっている。こ
の句はまるで気象予報士が、梅雨を追い払ったと言い切った
作者の発想が面白く、明るい句となった、(梅森 翔)

遠花火欄干にある昼の熱 加藤信子 「滝」俳句9月号<滝集>

2015-09-21 05:42:43 | 日記
 今年の夏も全国各地で花火大会が開催された。秋田県大曲
での花火大会は花火師が新作を競う全国的にも有名な大会の
一つである。私も十数年前に大曲の花火を見る機会があった。
この日の見物者は、全国各地からツアーを組んで参加するの
で、市の人口を遥に超え、渋滞に巻き込まれた記憶がある。
 掲句の花火大会の会場は、広瀬川界隈であろうか。三〇度
を超す日中の暑さも夕方になると和らぎ、花火の始まる頃は
気温が下がりすごし易くはなったものの、橋の欄干には日中
の余熱が残っているのである。
 同じ火薬を扱うにしても、五歳で北山の覚範寺から見た仙
台空襲の惨状は記憶から離れることはないであろう。火薬を
平和的に活用した花火大会が永遠に続くことを切に望みたい。
(梅森 翔)

夏燕文字消えかかる停留所 鈴木清子 「滝」俳句9月号<滝集>

2015-09-20 04:40:50 | 日記
 住民の人口流失による過疎化、更に取り残された人達の老
齢化が進み経済的、社会的な共同生活の維持が困難になる
「限界集落」が日本の各地で起こり社会現象になっている。   
掲句は前述したほど深刻な情況には未だ落居ってはいない
地域でのバスの停留所を描写した俳句であると思われる。バ
スの時刻表が薄れて、判読が難しい位朽ちて錆ついているの
だろう。一日に数本しかバスの運行がないので運営会社も補
修する経費も厳しくそのまま放置せざるを得ない状態なのだ。
 しかし上五の夏燕を季語にしたことにより、燕の飛ぶ躍動
感がこの句を引き立て、ややもするとマイナスイメージとな
るこの句を救ってくれた。(梅森 翔)

卓上のきいちの塗り絵遠花火 菅野経子 「滝」9月号〈滝集〉

2015-09-19 04:17:26 | 日記
きいちとは、大正三年生まれの画家蔦谷喜一のこと。昭和
一五年頃からぬり絵の仕事をしていたが、戦争で中断。二三
年から本格的にぬり絵の仕事に専念する。ふっくらほっぺに
まあるい目。振袖姿や、りぼんで飾った女の子、パーマをか
けたドレスの子、当時の少女たちの憧れだったろう。一時衰
退するも、昭和五三年に復活。世界でもっとも美しいぬり絵
といわれ、九一歳で亡くなるまで情熱は失わなかったという。
現在は、脳の活性化にも一役かっているようで、掲句のぬり
絵は、そんな使い方をされているのかも知れない。
 音だけの花火だが、手元のクレヨンが花火の色をも塗って
しまっているようだ。(小林邦子)