「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

笊川に影ふたつある良夜かな 谷口加代 「滝」11月号<滝集>

2013-11-30 05:23:13 | 日記
 笊川は、名取川と広瀬川という二つの大きな川にはさまれ
た小河川。その川縁にある「ふたつの影」は「二人の影」で
しょうか。名取川さんと、広瀬川さんの隔たりは、もう小さ
い笊川ほど・・・。中秋の名月の美しい夜ならば、そんな想
像もしてみたくなりますが、影を言って、良夜の明るさを思
い描かせる写生の確かな目は流石ですね。生活に根差した笊
川の気取りのない景は、万人の良夜の過ごし方に繋がって行
く気が致しました。(H)

縄文の髑髏の虫歯秋日影 芳賀翅子 「滝」11月号<滝集>

2013-11-29 05:03:13 | 日記
「縄文人に虫歯?。遺跡から掘り起こした時に欠けたの
ではなくて?」。調べてみると、約270人の縄文人の歯の調
査から、団栗や栗を主成分とする縄文クッキーが見つかっ
ており、特に女性は当時から間食を好み、甘味は少ないが、
でんぷん質の多いものを食べていた証拠になり虫歯の原因
と想像されているそうです。治療はなく、食べ物に混じっ
た細かい砂や、革をなめすために奥歯を使ったため奥歯が
すり減り、軽度の虫歯は摩耗で消滅すると記されていました。
空気が乾いて陰影のくっきり見える「秋日影」が、展示物
から知ったあれこれへの感慨として据えられたようですね。
(H)

縄文の髑髏の虫歯秋日影 芳賀翅子 「滝」11月号<滝集>

2013-11-28 04:29:52 | 日記
 今年の夏から秋にかけて、多賀城の東北歴史博物館にお
いて「考古学からの挑戦 東北大学考古学研究の軌跡展」
が開かれていた。作者を含むいつものメンバーで見学した。 
そこに「縄文人にも虫歯が…」と書かれた人骨が展示し
てあった。皆一様に興味を持ち頭を寄せ合って眺めてきた。
私の中では「うーん、髑髏とか骸骨とかいうのはあまり
俳句的ではないし…」という思いが交錯し一句に成らなか
った。彼女はこういう句がとてもうまい。まさに…物の見
えたる光、いまだ心に消えざる中にいひとむべし…なのだ。
柔らかな秋日影も良く効いている。(加藤信子)

解体の鉄塔銀河あふれをり 中川浩子 「滝」11月号<滝集>

2013-11-27 05:21:13 | 日記
 鉄塔の解体までの「陰」の時間と、いま目にしている銀河
の「陽」の対比が素晴らしい。例えば、シルクハットの闇か
ら、たくさんの白鳩が飛び出した時「うわぁ~」と、拍手が
起こるような感じとでもいいましょうか。しかし、作者は石
巻の方。破損、折損した大震災を思い出すような鉄塔の撤去
を願っていたとしても、解体されて銀河が良く見えることを
手放しで喜ぶようなことがあるだろうか。パソコンを繰って
も、納得のいくような資料は得られず、とうとう作者に電話
をするという反則を犯しましたが一挙解決です。ご自宅の傍
に不要の自動車電話塔があって、冬になると水滴が飛んでく
るなど、疎まれており、その撤去工事の音や振動も大変な物
だったとのこと。句の晴々感に納得ですね。 (H)

目覚むれば花野の記憶無菌室 鈴木弘子 「滝」11月号<瀑声集>

2013-11-26 04:58:32 | 日記
臨死体験かと「無菌室」から思いました。無菌室は最先端の
医療に命を預けるところ。家族であっても入室が許されない空
間で生死を分けた「花野の記憶」。臨死体験の研究者によると、
宗教も国籍も老若男女も関係なく、報告されたケースには八つ
の共通点があり、その中に<生前親しかった人の「来てはいけ
ない」なとど言う言葉に、現世に戻る決意をする人もいる。>
と、書かれていました。感情を抑え、二つの場所のみの表現に、
想像もつかないような作者の心痛を思いました。早く、一緒に
花野道を歩いて、お家に帰れるといいですね。(H)