「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

忽然と百の鶏頭消えてをり 菅原鬨也 「滝」8月号<飛沫抄>

2012-07-30 04:53:55 | 日記
 時間と空間が同列に扱われている不思議な句。消えてしま
ったというのに、鶏頭の力強く群れて咲いている様が見えて
くる。「をり」は、多くは今そのことが、そこで行われている
か、状態が続いていることを表す時に用いるが、「忽然」と切
り取って、この「をり」には?と!が付いている。それゆえ
に作者の困惑の中に連れて行かれてしまう。はかなげな花の
多い秋に、鶏頭の存在感を思えば、それに相当する何かに鶏
頭を置き換えたのかもしれない。鶏頭が鶏冠花と呼ばれるこ
とに関わる「鶏化して花となる」という民話が中国にある。
主人を守らんと死闘の末に命を失った雄鶏の話である。心を
通わせてきた何かを突然失ったと読める気がした。
「鶏頭花抜きたる穴の熱からむ 菅原鬨也」
鶏頭にある燃えるイメージ。何もない地面に、確かにあっ
た百の鶏頭の熱だけが残っている。まだ、思い出という静か
なものになり得ない心の有り様でもあろうか。(H)