「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

零戦の沈む海より秋の声 小林邦子 「滝」10月号<滝集>

2013-10-31 04:59:13 | 日記
 映画「風たちぬ」で、零戦の生み出される経過を改めて知っ
た。飛行機を愛する堀越二郎の苦悩をも合わせて。
 今年の8月青森のねぶた祭に行ったついでに、三沢基地に
隣接する「青森県立三沢航空科学館」を見学した。そこに映
画「零戦」撮影のために復元された零戦が展示されている。
それと並んで十和田湖から69年ぶりに引き上げられたという、
旧陸軍の立川キ54-双発高等練習機が展示されていた。零戦
より少し大きめの機体で、原型をとどめてはいるものの腐食
が進み、痛ましい姿だった。四人の乗組員のうち三人が殉職
したという。
この機の姿が脳裏に焼きついており、邦子さんの句がずし
んと心に響いた。秋の声の季語は動かない。(加藤信子)

雲を脱ぐマッターホルンラムネ飲む 大友順子 「滝」10月号<滝集>

2013-10-30 05:08:55 | 日記
 作者はよく海外旅行をされる方らしく、8月には「エーゲ
海」を9月には「ベルゲン」。今号も他に「オーロラ」の句
が詠まれて羨ましい限りですですが、そんな私にも良く伝わ
って来る清涼感です。ラムネ壜を手にするのは、お祭りや観
光地。首を反らさなければ飲めないラムネの視線の、雲の取
れた真っ青な空に、「アルプスの角」と呼ばれるビラミット
型の白い高い山の絶景を呼び起こしたのでしょうか。その峰
もムネも懐かしく存在して、時空を繋いでいる。からっぽに
なったラムネ壜のビー玉を涼やかに鳴らして、また歩き出す
作者。「旅は元気なうちに遠くから」と言われます。存分に旅
をして、どんどん俳句を詠んでまいりましょう。(H)

黒竹に銀河の響きありにけり 伊藤英子 「滝」10月号<滝集>

2013-10-28 05:09:51 | 日記
 黒竹は、庭に植えられたり、鉢植えにしたりして、わりと
身近にある竹。秋ごろから稈の色が黒色に変わる。その色と
たわみ具合が好まれ、工芸品を作るのによく使われている。
「銀河の響きありにけり」と、詠んだ日中の黒竹に吹く秋風
を言い止めた感性は素晴らしい。銀河の空は昨夜かも知れな
いし、数日前、数年前かもしれない。黒竹が記憶している銀
河響きとしての「ありにけり」かと思います。現実時間と次
元の違う時空間を広げる詩的な句に思わず耳を澄ましてみた
くなりますね。(H)

点滅のネオンサインや大海鼠 桜井幸宏 「滝」10月号<滝集>

2013-10-26 03:42:47 | 日記
夜の繁華街のシンボルとも言えるネオンサイン。海鼠は、
左党垂涎の味覚といわれ、要するに酒飲みが、食べたくてよ
だれを垂らすものだそうですから、字面から感じたほど、離
れ過ぎず響き合っていると思いましたが、「大海鼠」と詠まれ
ると、味覚よりも視覚に重きが置かれているような気もして
きます。震災から二年以上たった今も、海辺地帯は広大な更
地。そんな真っ暗な夜の景色に「気味の悪さ」を感じてもい
いのではないでしょうか。ネオンサイン、コンビニやドラッ
グストア、車のヘッドライトetc.街にある明かりの豊か
さは、平和の象徴であったのだと思った時、このネオンサイ
ンは「たくさん」ではなく「ひとつ」なのかもしれないと思
いました。(H)