「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

我影を雪に残して戸を閉める 超谷双葉 「滝」2月号<特別作品>

2012-02-29 05:13:58 | 日記
 影を雪に映した行為を「雪に残して」と過去形にしたとこ
ろが気にかかった。俳句は瞬間を切り取る文芸と言われるが、
この句の場合、時間経過が表現されている。雪の上に残され
た影はどうなったのだろう。雪女郎になったのだろうか。作
者は青森市在住の方なので、大雪に女の溜め息を聞かせた影
かもしれない。(赤間白石)

水仙や畳を水の走りたる 菅原鬨也 「滝」2月号<飛沫抄>

2012-02-27 04:59:07 | 日記
水仙は庭や畑に植えられ、時に切り花として床の間に飾ら
れる。昨年の東日本大震災の折には美智子妃殿下に送られた
花としても記憶に新しい。水仙には気品と安心感ずあり、日
常性がある。畳の上を水が走るのは非日常の世界。混沌とし
た今年の冬の日常感覚を表現しているように感じられた。
(赤間白石)

床下に眠る濁酒電話鳴る 田口啓子 「滝」2月号<渓流集>

2012-02-26 00:14:34 | 日記
 濁酒は許可なく作ると酒税法違反に問われるが、それを承
知で秘かに床下に眠らせているとなれば、「恋」の隠喩とも
解せそうで、「電話鳴る」に弾む心が見えるのだが、濁酒は
簡単な道具で家庭でも作ることができるそうで、だからこそ
の禁止令。濁酒は懐かしさに繋がるのだろう。作者の幼い頃
にかかわる誰かを濁酒によって思い出している所に電話が鳴
って我に返った。そんなワープでしょうか。濁酒を飲むので
はなく、濁酒という存在を詠む詠み方もあるのですね。勉強
させて頂きました。(H)

ジャズライブ果て蝕尽の月凍る 鈴木ひびき 「滝」2月号<渓流集>

2012-02-25 06:52:06 | 日記
 先ず「蝕尽の月」と、月蝕の終わった月を言い表した言葉
に惹かれた。熱気を思わせるジャズライブと、月蝕という天
体ショーの「終わりの様」の違いが詠まれた句と思う。まだ
ジャズライブの熱気が残る夜気に、熾炭のような赤い色を持
っていた月蝕の月は今、凍りついたように空にある。そう思
ってみると、「熱を帯びる」という感覚も共通してあるのだな
あと、深く感じ入ってしまった。(H)