「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

躓きて著莪と目のあふ茶室前 遠藤玲子

2021-07-29 03:45:54 | 日記
茶室に気を取られて躓いたヒヤリとした瞬間。「著莪と目のあふ」という目線の切り替わりによって、何事もなかったように日陰に咲く著莪のひそやかな容姿が、茶室をそなえた和の庭の雰囲気を涼し気に見せる「技」の効いた句。(博子)

飛びついて獏齧りゆく夏の月 鈴木要一

2021-07-27 03:40:03 | 日記
獏は中国の想像上の動物だが「飛びついて」も「齧りゆく」もリアルで楽しい。5月26日の皆既月食から連想されたのだろうか。月が地球に最も近づいた状態で起きるため、月が大きく見える「スーパームーン」。夢のような瞬間の写生句かと思った。
「兜虫月齧らむと発ちにけり 菅原鬨也」
を思い出した句でもあった。この兜虫らしさが詠まれた句に「獏」をあてると、人の悪夢を食うといい、また、その皮を敷いて寝れば疫病を避けるという存在に、コロナ禍という悪夢から解放してくれるのは獏しかいないと思ったりしたが、獏の皮は手に入らない・・・。変な鑑賞になってしまったが、心置きなく「夏の月」の夜涼を感じながら人々が集える日が早く来ますように。(博子)

袋掛津軽丸ごと包みけり 成田清治

2021-07-25 03:52:37 | 日記
津軽と言えば林檎。今は袋掛けが終わった景色。津軽は「成田」姓が多いと聞いた覚えがあり、「津軽丸ごと包みけり」と、ざっくり詠まれたことで、その土地ならではの親しんだ景色の感じが出ているように思います。農家さんが一つ一つ手作業で掛ける袋は、品種によって使い分けられ、千秋など比較的着色が容易な品種は遮光度の弱い一重袋を、つがる、ジョナ、ふじなどは遮光度のより強い2重袋を、むつ、世界一など着色の困難な品種は遮光度の最も高い三重袋を使うそうで、丹精の景色でもあるのですね。秋のつやつやの林檎が見えて来るような句でもありました。(博子)

ほととぎす独眼竜の筆の跡 佐藤憲一

2021-07-23 03:55:29 | 日記
「独眼竜」から戦国時代を連想して、「ほととぎす」にまつわる有名な句、
鳴かぬなら殺してしまえほととぎす 織田信長」
「鳴かぬなら鳴かせてみせようほととぎす 豊臣秀吉」
「鳴かぬなら鳴くまで待とうほととぎす 徳川家康」
が思われて、戦国の三英雄を醸す詠み。
作者は伊達政宗の研究者で、筆まめだった政宗の手紙から、人物像や歴史に係わる、政宗好きにはたまらない著書もたくさん出版されています。作者ならではの句と思いました。(博子)

山神を封じ込めたる藤の昼 池添怜子

2021-07-21 05:33:22 | 日記
「山を覆うように山藤が咲いている。春の陽を受けて、煙るような薄紫の花色に和んでいる。そんな目の嬉しさを思う句だが「封じ込めたる」である。上五、中七のフレーズは作者の心の描写かと考えてみた。山の神は女神であり、恐ろしいものの代表的存在であったことから、口やかましい妻の呼称の一つとして「山の神」が用いられるようになったことを思えば、そんな読み方も楽しい。「藤の昼」という心の穏やかさに着地して、茫々と寛容な妻の出来上がり・・・。(博子)