「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

馬上にて腰にサーベル花の下 赤間 学

2019-07-27 04:19:29 | 日記
ナポレオンかとおもったら「花の下」。秋山好古の騎馬像(現在は復元像)が思われた。「日本騎兵の父」と呼ばれる秋山好古と、旧海軍中将、秋山真之は正岡子規の兄である。日露戦争をテーマにした司馬遼太郎さんの小説「坂の上の雲」をテレビで見たのは何年前になるのだろう。子規の生涯にも思いの到る句であった。(博子)

万祝を仏間につるす薫衣香 阿部風々子

2019-07-25 03:58:45 | 日記
「万祝」は、大漁・豊漁の際に網元から漁師に配られてきた祝いの品であり、いわゆる晴れの場に着る衣装として、房総半島沿岸部の漁師町で生まれた染め物ですが、次第に太平洋沿岸各地の漁師町にも広がりました。古来からの染め物と聞くと、淡い色使いや繊細な図柄をイメージしますが、最大の特徴は、大胆・豪快・カラフルなデザインにあります。鶴や亀、松竹梅といった縁起物を題材にしたことが多かったそうですが万祝衣装を着る文化は徐々に廃れていったようです。今は大漁旗が多いように思います。「薫衣香」という桂皮、白檀、丁字、龍脳などの天然香料を調合した、衣類の防虫用の匂袋が季語として配されて、代々漁師さんのお宅で大切に保存管理されて来たことがわかります。「仏間」がその一役を担って効いています。(博子)

麦秋の荷台のサーフボードかな 加藤信子

2019-07-23 05:12:08 | 日記
 私は稲作地帯に暮らしている。減反政策の名残で麦を植えている所があり、初夏は稲の緑と麦の黄金色が点在している。掲句はもっと広範囲に麦畑のあるところなのだろう。麦穂波を背景に波繋がりのサーフボードを積んだ車が走っているが「荷台」だ。「屋根」ならワゴン車を連想するが、農作業にかかせない軽トラックかと、麦秋の景から海に向かう農家の若い跡取りを思った。軽トラックに積まれたサーフボードは少しカッコ悪くもあるが、このミスマッチのようなベストマッチを「かな」と軽めに驚いているところに、「人物」が見えるような気がした。私の知人にも専業農家をしながら夫婦で社交ダンスをしている方がいて、家にはたくさんのトロフィーが飾られている。土まみれの服をタキシードとドレスに着替えて晴れ晴れと出掛けて行く。そんなことも手伝ってこんな鑑賞になったのかも知れない。(博子)

千草を背に一頭の驢馬急ぐ 山本峰子

2019-07-21 04:50:13 | 日記
 五月十二日、初夏の八木山動物での定例吟行会のお作。私は出席出来なかったので皆さんの俳句で動物園に行ったつもりに・・・。
千草を背に一頭の驢馬急ぐ 山本峰子
薫風やコキコキ畳むラマの足 中井由美子
作り滝愛想の良き虎のゐる 谷口加代
蒲公英の絮リスザルの宙返り 遠藤玲子
同人作品だけを読んでも、いろんな「目」があって楽しい。「滝集」の吟行句と合わせて、行ったつもりに充分なれたけれど、動物園に行きたい気持ちが強くなった。行こう。行くぞ。
「炎天にひらがなを食む麒麟かな 菅原鬨也」
に会いに・・・。(博子)

いきなりのヘリの高鳴り夏あざみ 池添怜子

2019-07-19 04:15:16 | 日記
 1m程の草丈になる夏薊は山野を訪れる人の目を楽しませる。そんなところに急にヘリコプターの音がして視線が更に上へと変わる。いや違う。それなら「いきなり」ということはない。遠くに音が聞こえていたはずだ。離陸のリコプターだろうか。かなり離れていて人の声が聞こえない距離にあっても驚くようなヘリコプターの音。ドクターヘリだろうか。プロペラのおこす風が夏薊を大きく揺らしている。ヘリコプターの音が緊急事態を思わせて胸中をも乱して飛んで行く。見えなくなるまで見送っている作者の「呆然」が思われる。(博子)