「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

小春日やおぞましきわがものわすれ 平賀良子 「滝」1月号<滝集>

2013-01-31 05:54:31 | 日記
 おおいに共感いたします。私も最近よく忘れます。「忙しす
ぎるんだよ」と愚息が慰めてくれるのですが、そうばかりとは
言えない年になったのだと悲しくもなります。掲句は「おぞま
しい」と言いながらも小春日が「まあ、年相応ね」と笑い飛ば
している感じを醸し出していておもしろいですね。(H)

能面の優しき眉や冬の月 鎌形清司 「滝」1月号<滝集>

2013-01-30 05:39:38 | 日記
展示されている能面だと思いますが、能面を正面からみる
と「能面のような顔」と称される無表情な顔のはずですが、
表情ではなく「眉」を優しいと感じとった作者です。合わさ
れたのは、透き通った冬の大気の中で、磨ぎ澄まされたよう
に輝く「冬の月」。能面のゾッするような美しさにもかかるよ
うな季語ですが、ぼかし刷毛で硝煙を擦りこんで額に描
かれる引眉。唯一この眉だけが輪郭を持たないことに
心が留まったのでしょう。きっと随分長い間見詰めて
いたことでしょうね。(H)


返り花恋に理屈のなかりけり 堀籠政彦 「滝」1月号<滝集>

2013-01-29 05:16:48 | 日記
そうですね。恋はいつだって知らないあいだに心の中に育
って、気が付いたときには答えのない答えを探してしまうも
の。けれど、そうなる理由なんてどんなに考えても分からな
いのです。帰り花は初冬の小春日に咲いたけなげな花に、や
がて来る厳しい冬を思いやる季語ですが、その花に和み、恋
を受け入れ、「自然」と「神様」のなすことに介在はできない
のだと、心を奪われている今を否定しない丸投げ。この恋の
行方や如何に・・・。(H)

月夜茸半殺してふ民話あり 鈴木三山 「滝」1月号<滝集>

2013-01-28 07:27:58 | 日記
 月夜茸は毒茸ですが、それによる「半殺し」かと言うとそ
うではなく「ぼたもち」の事ですね。誤解がうんだ民話が少
しづつ違って沢山あるようです。その中の「本殺しと半殺し
(山形県)」は、旅の侍が、暮れてしまった山で見つけた一軒
家に、泊めてもらいのます。夕餉をごちそうになり、通され
た部屋の障子越しに「明日は、半殺しがええべか、それども、
お手打ちがええべか」とお爺さんとお婆さんが相談している
のを聞いて、刀を抱いたまま布団の中でじいっと眠れない夜
を過ごす。という民話です。「本殺し」は餅、「お手打ち」
は家で作って切った蕎麦のことを言うようです。最後は笑っ
て終わるお話し。闇の中で発光する茸に民家の灯を連想した
と思われる句。民話は母恋を伴った懐かしい秋の夜長にも通
じてくるようですね。(H)