「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

復活祭電池きれたるまねき猫 畑中伴子 「滝」5月号<滝集>

2011-05-31 21:09:59 | 日記
  十字架にかけられて死んだイエス・キリストが三日目に復
活した日と、招き猫の電池が切れて「おいで、おいで」をし
なくなった招き猫。取り合わせの楽しい句だ。不謹慎にもキ
リスト様も電池仕様だったのかと想像してしまって、すぐに
打ち消した。不況が影響しているのか、最近招き猫の売れ行
きが好調だそうで、太陽電池で動き続ける招き猫もあるそう
だ。当店の金色の招き猫も、大震災を生き残り、お客様を招
いてくれています。(H)

芽起しの風のささめきモカ匂ふ 庄子縫子 「滝」5月号<滝集>

2011-05-30 20:10:34 | 日記
 木の芽風が吹いている。その年初めての南風が万物に春を
知らせているのだが、例年よりも早い知らせなのか、南風は
囁くように「春ですよ。起きてくださーい」と、少し申し訳
なさそうに目覚めを促しているようだ。ホロ苦いモカの香り
が漂う窓越しに、俳人としての作者の目が敏くある。(H)

守秘義務にございますので蝸牛 成田一子 「滝」5月号<瀬音抄>

2011-05-29 19:38:07 | 日記
 おもしろい句。よくこんなフレーズを思いつくものだ。蝸
牛は、栄螺のような厚い蓋をもたない。守秘義務という固い
言葉を「で」ではなく「に」したことによって人を遠ざけな
い語の力を感じる。おっとりといる蝸牛の時間に寄り添って、
梅雨濡れの青葉の匂いの中に佇んでいるのだろう。(H)

海吠ゆる疵の仏の春の夢 阿部風々子 「滝」5月号<渓流集>

2011-05-28 21:12:14 | 日記
震災の六句の中から掲句を選んだのは、「海吠ゆる」と表
現された大津波と、震源地に遠い地、若しくは津波の被害の
軽い地で疵を負ったらしい仏像に「春の夢」という、その夢
の中身にさして注目しない季語を持ってきた上手さを感じた
からだ。「今」という目覚めた後の現実がただある。それは
惨状としか言いようがないのだ。(H)

本棚に傾ぐこけしや春愁 牧野春江 「滝」5月号<渓流集>

2011-05-27 21:28:31 | 日記
 地震の句と思う。作者は東京のミニ句会「華の会」の責任
者である。東日本大震災の日は東京も震度5だったと記憶し
ている。傾いだ物はたくさんあるはずだが、「こけし」である。
こけしの主産地県の被害を愁いてくださっているのでしょう。
私も被災者の一人として、このお見舞いに心よりお礼申し上
げます。(H)