「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

揚羽蝶六文銭の旗に消ゆ 鎌形清司 「滝」9月号<瀑声集>

2013-09-30 04:53:46 | 日記
 六文銭は安土桃山時代の武将真田幸村の旗印。幸村は関が
原の戦、冬の陣、夏の陣で豊臣方に加勢、卓越した指揮官と
して武威をあげた。籠城して徳川の大軍を退けた戦はつとに
有名であるが、作者は幸村の居城長野の上田城址を訪れたの
だろうか。以前私は善光寺の御開帳に合わせて観光。小布施
や軽井沢を巡って上田へも行った。千曲川右岸の断崖の上に
築かれた城は桜の名所城址公園となって東の櫓門には六文銭
の旗が幾本も掲げられていたが、今も旗めいているのだろう。
西軍の幸村は関が原の戦後34歳から15年間も高野山に蟄居さ
せられていたと聞く。この句の揚羽蝶は、遂に戻れず夏の陣
で戦死した男盛りの幸村の化身のように思えてならない。
「蔵王は幸村の郷」という風聞を耳にしたのでネットで検索。
はたして<仙台真田家>が存在していた。幸村の嫡子は父と
共に討ち死にしたが、二男守信は姉阿梅の夫である仙台藩白
石城主片倉重長に匿われるという幸運があった。守信は長じ
て伊達家の家臣となり、現在の宮城県刈田郡蔵王町東部一帯
に300石の領地を与えられた。以降真田幸村の血筋を継承。
<仙台真田家>として血脈を今に伝えている。現在は11代目
というが、詳細は蔵王町が把握しているはずである。(あいざわ静子)

雲の峰藪割つて出る測量士 成田清治 「滝」9月号<滝集>

2013-09-29 04:54:46 | 日記
 夏の象徴のような入道雲です。空を眩しんでいる作者に突
然ガサっと何かの気配。近年、人里に出没する熊に襲われた
ニュースなど頭を過ったのかもしれません。でも藪から現れ
たのは、藪から棒ならぬ、藪から赤白の測量ポール。と言っ
たところでしょうか。安堵と、暑い中、ヘルメットに長袖の
作業服と安全靴で仕事する方に敬意を表しての一句でしょう。
測量データーがないと、土木作業も建築作業も前に進めない。
被災地の復興に関わる日焼けした顔を思いました。(H)

ほととぎす蔵に津波の白き線 芳賀翅子 「滝」9月号<滝集>

2013-09-28 05:11:49 | 日記
 有志9名で「塩釜神社の神事藻塩焼」に吟行に行って来た
報告が今号に載っていて、神事が始まり海水が煮詰まるまで
の間に訪れた「浦霞酒造」の壁に震災津波を伝える白い線が
あったことが記されている。ほととぎすが盛んに鳴いていた
ことは、例会に投句された「藻塩&ほととぎす」の組合せの
句から知ることが出来ましたが、同時に類句の多さに吟行句
の恐さも知りました。掲句は「藻塩焼きを見る目的」から少
しはなれ、津波からの時空を語る重要な役目を時鳥に託した
のでしょう。削いだ言葉が湧きあがって来るような句だと思
いました。(H)

涙するための旅なり青ぶどう 小林邦子 「滝」9月号<滝集>

2013-09-27 06:13:12 | 日記
 泣くために旅に出る。その心中を知る事は出来ないですし、
そっとしておいてあげる方がいいのでしょう。「涙がかれる
までないたらいいよ」。そう言って作者を受け止めてくれる
存在があるのかもしれませんね。日に日に大きくなっていく
青葡萄は希望が膨らんでいくようで、その爽やかさも静けさ
も充実感に繋がっていくようでいいですね。前を向くための
旅鞄の重さが、成熟した葡萄の房の重さに転化していくよう
な見事さに感じ入りました。(H)