「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

竜淵に潜むピカソの回顧録 及川原作 「滝」12月号<滝集> 

2013-12-31 05:08:29 | 日記
 ピカソの作風はめまぐるしく変化し、それぞれの時期が
「◯◯の時代」と呼ばれ、そのままピカソの人生の記録と言
ってもいいようだ。
淵に潜む竜の眼が、ピカソの眼光を思わせるべく働き、ゾ
クッとするような鋭い視線を思わせる。見られている感覚は
二十歳の自画像からの感受でしょうか。季語の効果絶大の作
品ですね。(H)

一木に惚れし仏師や小鳥来る 佐々木博子 「滝」12月号<滝集>

2013-12-30 04:41:20 | 日記
 すぐれた仏師は一本の木を見たときに、その中に完成され
た仏様の姿を見、それにしたがって彫り進んでゆくだけと話
すのを聞いたことがあります。そうして彫られた仏さまだか
ら、完成したときはもう既に魂が宿るものとして存在するの
かもしれませんね。作者は一心に仏像を彫る仏師の前に立ち、
鉋屑の匂いに包まれて、しばし忘我の境地にいるようです。
明るい小鳥来るの季語がその姿を際立たせています。(加藤信子)


うなづきて傘に入りけり生姜市 鴨 睦子 「滝」12月号<滝集> 

2013-12-28 05:19:07 | 日記
 「生姜市」は、芝大神宮の祭礼にたつ市で、十一日間も行
われることから「だらだら祭り」と言われ、
「だらだらとだらだらまつり秋淋し 久保田万太郎」
と詠まれています。
今日こそはと出掛けてきたが、降り出した雨に傘から帰り
を促す目くばせ。それに頷く作者。そんな感じでしょうか。
生姜市は歌川広重によっていくつか描かれており、その広
重は「雨の詩人」といわれるほど雨の風景を好んで描いてい
ます。そんな連想が働いての「傘」かとも思われますね。(H)

冬の雁マッチ擦る間の修司かな あいざわ静子 「滝」12月号<滝集> 

2013-12-27 04:33:16 | 日記
 冬の雁から見えてくる寒々とした景色に、「マッチ擦るつ
かのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」と、寺
山修司が上京後に詠んだ青森が重なった作者でしょうか。ロ
ングコートを来た男がタバコに火をつける。そんな映画の一
場面のような描写が、群れに距離を置く一羽の雁の佇まいを
思わせるような句ですね。(H)