「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

かなかなの奥にかなかな湖昏るる 勝見捻一郎 「滝」11月号<滝集>

2012-11-30 05:29:27 | 日記
 かなかなの声、そしてその奥にもかなかなの声。「かなか
な」は「蜩」。「日暮」とも書く。まるで森の中を歩きに歩
いた一日の果てに、黄昏時の湖を見ている感じがする。わけ
もなく、センチメンタルな気分になるってくるのは、かなか
なの声の静かな余韻のせいでしょうか。季節の変わり目に扉
があるわけではないのですが、「奥に」に、そんな扉が幾つ
もあって開いていくような、その先に澄んだ水を湛えた湖が
夕陽に光っているような、そんな不思議な感覚にもいざなわ
れる、美しい句と思いました。(H)

潮騒はわれを離さず秋麗 渡辺登美子 「滝」11月号<滝集>

2012-11-29 05:04:39 | 日記
 東日本大震災の津波で九死に一生を得た作者。豹変の海の
恐さを知っても尚、潮騒の聞こえる暮らしが好きなのですね。
秋のよく晴れた日の、春の「麗か」にかよう、心がうっとり
するような日和。変わり果てた街を通り抜ける風が運ぶ波の
音を寂しくも感じながら、あの日と同じようにご主人が傍ら
にいらっしゃるのでしょうね。そんなお二人に潮騒のビージ
ーエム、ですね。(H)

雁渡るふるひに残る小石かな 中井由美子 「滝」11月号<滝集>

2012-11-28 05:49:47 | 日記
 鉢花の植え替えでしょうか。秋恒例の作業をするうちに、
今年も渡ってきた雁の声が賑やかです。「ふるいに残った小
石」は、そんな選りの中に渡り鳥の過酷な旅を思って配され
たのかも知れませんね。雁は、シベリアのツンドラ大地から
日本まで、実に約4000kmの空の旅をして、やって来る
そうです。すべての雁が無事に日本に到着できるわけではな
いでしょう。ふるいの下に小さな山を作ってる土に、合掌し
たくなりますね。(H)

言ひ足らぬ言葉や蜘蛛の早きこと 渡辺民子 「滝」11月号<滝集>

2012-11-27 05:35:33 | 日記
 晴れない心が取り残された作者が、何とか平静を保とうと
立っている。イメージの飛び方に独自性があり、「や」が弥
次郎兵衛の力点のように置かれて、バランスよくフレーズが
配されている。余白の大きな句で、その想像は、万華鏡のよ
うにくるくると変わる。極端な事を言えば、逢瀬の短い一時
から、オレオレ詐欺の手口まで、頭の中を過って行く。なの
で、鑑賞は正直に言えば逃げ腰。目の前に残った蜘蛛の巣に
感じたであろう帰ってこない時間が、頑丈なフェンスのよう
に立ちはだかるっているようで、いえ、壊れやすい時間のよ
うで・・・。(H)

秋風の真ん中にある広辞苑 越谷双葉 「滝」11月号<滝集>

2012-11-26 05:31:43 | 日記
 「秋風」は三秋で使われていて、傍題も多いのですが侘
びしさを感じる季語です。その真ん中に広辞苑があると言
うのですから、何だか捨て猫を見つけて、拾って帰りたい
気分と似たような感覚を覚えました。電子辞書やパソコン
で調べることが多くなり、私の広辞苑も本棚の飾りと化し
ていますが、嘗て投稿の薄謝を貯めて買った大切な物です。
掲句の広辞苑に成り代われば、
「終夜秋風きくや裏の山 曾良」
そんな感じでしょうか。現代が象徴された写生句だと思い
ました。(H)