「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

クリスマス常長の船宙に向かふ 渡辺登美子 「滝」2月号<滝集>

2015-02-28 03:19:05 | 日記
 支倉常長のミッションは、伊達政宗に遣欧使節の実行を勧
めその一行に同伴したルイス・ソテロによって、新造船に洗礼
者聖ヨハネの加護を願い船名に頂き、慶長18年(1613)
年に月の浦湾を出帆した。それは、現在の宇宙への飛行以上
に苛酷で危険に満ちていたものだっただろう。太平洋の荒波
に木の葉のように翻弄され、胃の腑が口から飛び出すほどの
苦しみも味わったに違いない。前途を予見するかのように。
こころざし半ばでの帰途、常長は厳しい現実の待つ日本への
船中、船底を掻きむしる様に祈っていたのだと思う。(木下あきら)

沈黙の眼差し痛しシクラメン 佐藤時子 「滝」2月号「滝集」

2015-02-27 03:18:31 | 日記
 目は口ほどにものを言うとはよく言われるが、痛しという
のだから穏やかではない。シクラメンの花言葉は、赤は嫉妬
白は清純、ピンクは内気。この句のシクラメンは赤がぴった
り。どんなドラマが繰り広げられているのか興味深々である。
季語が良く効いていて、いろいろ想像させられる一句。(中井由美子)

夢の世の白鳥水を走るかな 渡部潤治 「滝」2月号<滝集>

2015-02-26 04:18:28 | 日記
 作者は、秋田の方。白鳥の飛来地、雄物川の近くにお住ま
いなのだろうか。掲句の夢の世とは、少年の頃から毎年渡っ
て来る白鳥を眺めながら膨らませていた未来への夢の世界の
ことだろうか。白鳥は優雅な姿をしているが、あの大きな体
を空に浮かせるため、水の上を走りながら助走をつけなけれ
ばいけない。その姿に作者は自分の人生を重ね合わせている
のだろうか。(中井由美子)

四人目の男の胸の冬菜籠 木下あきら 「滝」2月号<瀑声集>

2015-02-25 03:16:29 | 日記
 「降誕祭」と題された5句の中の1句。キリストの誕生の
際、東方の三人の博士が星の導きにより馬屋にたどり着いた
話は有名だが4人目の男とは?。疑問に思い作者にお伺いし
てみたところ、なんと4人目はクリスチャンである作者ご自
身とのこと。三人の博士がそれぞれ「黄金」「乳香」「没薬」
という貴重な贈り物を捧げた後に続き作者は日本の美味しい
冬菜を聖家族に食べて戴きたく携えてお祝いに駆けつけた。
タイムスリップして「虚」の世界に遊ぶ満足化な作者。ユニ
ークな句作りに脱帽。(中井由美子)

冬たんぽぽ仙山線の転車台 鈴木幸子 「滝」2月号<滝集>

2015-02-24 03:16:44 | 日記
 仙山線は国内初の交流電化軌道.1937年に全線開通し、
戦後新幹線の礎となり、作並・山寺両駅の(蒸気機関車が方
向転換するための)転車台が土木遺産として顕彰された。最
近まで土砂に埋もれて赤錆だらけだった鉄塊が、世界に誇る
鉄道遺産として地域活性化のお役に立つとは…。古いものの
良さが見直される時代になったのですね。鉄の構造物である
転車台と冬たんぽぽとの対比が良いと思いました。(木下あきら)