「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

ひかり満つ卑弥呼の国や稲熟るる 平川みどり 「滝」11月号<滝集>

2014-11-30 03:35:45 | 日記
 今から2千数百年前、稲が大陸から伝わってきて、木の実
を主食としていた人々の暮らしが大きく変わった。土地はた
だの地面ではなく、田圃となり、食料を生み出すものになっ
た。金色の稲の熟れは、視野に収まらぬほどで、命の源とし
て気高い光を放っている。卑弥呼は邪馬台国の女王。邪馬台
国の所在地が九州か近畿かという事は今も議論が続いている
が、作者は九州の方。この地に生まれた誇りを感じる句。(H)

佇むや雄島に胸の冷ゆるまで 遠藤玲子 「滝」11月号<滝集>

2014-11-29 04:45:17 | 日記
 気が付けば、随分長い時間佇んでいたようです。晩秋の冷
えを感じたのは胸。心に通じるかと思います。
雄島は古歌に詠み込まれた名所。
 「松島や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくは濡れし
か 源重之」と詠まれ、「見せばやな雄島の蜑(あま)の袖
だにも濡れにぞ濡れし色は変はらず 殷富門院大輔」と、時
代を越えて、恋の問答をしているような本歌取りの歌が詠ま
れています。辛い恋で泣き続ける女性の激情を、海に遠い目
を向けて想っていた作者であったのでしょう。(H)

島島は祈りのかたち鳥渡る 鈴木清子 「滝」11月号<滝集>

2014-11-28 05:08:02 | 日記
 この句は日本伝統俳句協会第二五回全国俳句大会の松島で
の吟行句で、特選をもらった素敵な句です。震災と大津波か
ら、もうすぐ三年になろうとしているが、まだまだ復興には
ほど遠い現実がある。島島が祈りのかたちとは作者のやさし
い思いやりの気持ちがよく出て、心に残る句です。北国から
の渡り鳥、白鳥・雁など毎年忘れずにやって来てくれる自然
と生き物との融け合った晩秋の一コマ、心和み取り合わせも
良いと思います。(鈴木弘子)

炊出しの竈のくずれ蛍草 及川源作 「滝」11月号<滝集>

2014-11-27 05:23:36 | 日記
 炊出しは、火災や震災、水害時に、被害を免れた人が食事
を作って提供してくれることを言う。その調理に使う竈が壊
れてしまっている。「くずれ」から、今年8月の広島市の土
砂災害を思った。住宅街が広範囲に土砂に襲われたその被害
の大きさに息を呑んだ。微細で儚い味わいの蛍草が配されて、
自然の猛威に為す術もない様が詠まれたかと思う。
 「食べる」という、命を繋ぐための「竈」という具象が機
能を失っていることに、共に防災訓練をしてきたであろう地
区の人ごと「くずれ」に掛かるようで胸のつまる想いがした。

長き夜や色鉛筆をみな削る 清野やす 「滝」11月号<瀑声集>

2014-11-26 04:56:02 | 日記
 秋の夜長、虫の声を聞きながら、色鉛筆をみな削るとは
どんな心境なのだろうか。長く生きて来て、過去のさまざ
まな出来ごとや残されたこれからの人生など、静かに思い
を馳せているのだろう。色鉛筆の鮮やかさに負けない最後
の花を咲かせたいと念じているのかもしれない。人生は煌
めきの中で終わらせたい。色鉛筆で虹の橋をかけましょう。
(鈴木弘子)