「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

夜桜や吾がたましひにユダ潜む 木下あきら 「滝」6月号<滝集>

2014-06-30 04:48:36 | 日記
 作者はカトリックの信者ですから「裏切り」の言葉を引き
だしてしまう「吾がたましひにユダ潜む」は驚きのフレーズ
です。しかし、それは、作者の何となく円やかなお人柄や話
し方からの私の勝手なイメージでしかなく、不安を解消すべ
く作者に伺いました。
 作者は、「ユダ潜む」は厳密に言うと、心の隅に隠れてい
る訳ではなく、ともすると「この世の力や誘惑に惑わされて
しまう弱い自分」を見つめ、神の愛を信頼し赦しを願い祈る
自分がここに居る。ということを言いたかった様です。そし
て聖パウロの手紙に勇気を頂いて祈っているそうです。「い
つも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。どんなことにも感
謝しなさい。(テサロニケ信徒への手紙―5章16~18)」の引
用がありました。確かに、闇の中に白く浮かびあがる桜の木
の下にいると、えも言われぬ、心がかき乱される感覚をおぼ
えることがあります。それは桜の持つ儚さと呼応して、人に
心のゆらぎを自覚させるのかもしれません。(H)

着弾の山かたくりの花盛り 堀籠政彦 「滝」6月号<滝集>

2014-06-29 04:28:40 | 日記
 「片栗の花を咲かせて山しづか 長谷川櫂」と詠まれてお
り、「着弾」から連想する大音量の戦争だが、すでに盛りの
片栗の花の群生を思えば、視野に広がって来るのは、やっぱ
り片栗の花ばかりの静かな山である。私たち人間が片栗を片
栗粉として食してきた長い歴史のなかに、戦争もあったこと
を思わせる事で、今、その可憐な美しさを堪能出来ること、
つまり平和であることを語る、技巧の光る対比句。(H)

遺されし土鈴鳴り出す鳥雲に 加藤信子 「滝」6月号<滝集>

2014-06-28 04:38:07 | 日記
 「遺されし」と表記されていることから遺跡を思った。土
鈴の出土している遺跡を調べて見ると、あまり多くはないに
も関わらず、福島に三か所あり、その一つは、北向遺跡で双
葉郡楢葉町にある。楢葉町は東日本大震災で震度6強を観測。
津波による原子力発電所の事故で、町の大部分が警戒区域に
指定されたところだ。この巨大地震に「土鈴鳴り出す」は虚
ではなく実として据えられたかと、思わず目を閉じ、気持ち
を立て直さなければならならなかった。
北に帰って行く鳥が空高く飛翔し、やがて雲に入って見え
なくなる。『鳥ですら帰るところがあるのに・・・、』と、作
者の心は未だ故郷に帰れない方々に向いている。そんな代弁
として「鳥雲に」が据えられたのだろう。
震災から三年。癒えない心を抱えた、たくさんの人がいる
ことを改めて思わされた句である。(H)

城跡に走るトロッコ花吹雪 浅野リサ 「滝」6月号<滝集>

2014-06-27 04:18:23 | 日記
 国語の教科書に載っていた芥川龍之介の短編小説「トロッ
コ」を思い出しました。8才の少年が、工事現場でトロッコ
に乗せて貰って、遠くまで行き、帰りは一人で走って泣きそ
うになるのを耐えて、羽織も捨て、電燈の付く時間自宅に着
きます。着くと大泣きした話を26才になって回想する話です。
小説を引き出してしまう言葉のすごさに驚いてます。
 城跡に走るトロッコは、今は観光用でしょうか。城跡もト
ロッコも郷愁かられる句材で、季語の花吹雪も良いと思いま
す。(芳賀翅子)

初蝶のうれしくてうれしくて舞ふ 庄子紀子 「滝」6月号<滝集>

2014-06-26 04:47:45 | 日記
 初蝶は生きるために、飛んでてるが、健気に羽をパタパタ
している様を、うれしくてうれしくてと、リフレーンしたの
が、率直で好感持ちました。作者の意図がはっきりわかり、
個性的で良いと思います。句作の時、うれしい、悲しいは言
わずに表現しなさいと初学の時言われたが、掲句を見ると例
外がある事感じました。今夜は、うれしくてスキップした事
を思い出し眠りに就くこうかな。(芳賀翅子)