「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

咲き満つるとき声上ぐる桜かな 加藤信子

2021-05-29 04:18:31 | 日記
気温の上昇で満開を迎えた桜。小さな一つ一つの桜がワッと咲いている。そんな感じだろうか。そんな桜を見て思わず感嘆の声を上げる人々の中で、桜にも日差しへの高揚感があって、拡がる大空に「声上ぐる」と感受した作者であろうか。うまく書き表すことが出来ないが、感覚的にすごく分かる。俳人の耳をもった作者である。(博子)

三月の祈りや海の平らかに 庄子紀子

2021-05-27 04:21:07 | 日記
東日本大震災のあった3月11日午後2時46分、犠牲者を悼む鎮魂の祈りがささげられる。大津波で失われた沢山の命を思いながら、今見ている海は、あの日などなかったように静かに大きく広がっている。そんな日がずっと続くと良いのですけれど、2月にも3月にも4月にも強い地震があって
「思い出させるかに地震や春の闇 赤間 学」
あれから10年の節目の年に、本当にそんな感じでした。備えをしなくてはいけませんね。そして黙祷。(博子)

笹鳴をそびらに鍵のみつからず 今野紀美子

2021-05-25 03:58:33 | 日記
鶯は冬になると餌を求め、山を下り人里で暮らし、鶯らしくもなく小さな声で鳴いている。この声に背中を向けて、玄関の前でバックの中を手探りして鍵を探している。寒いので一刻も早く家に入りたいのだが、中から鍵を開けてくれる人がいないのだろう。何でもそつなくこなす作者を知っているだけに「あれ?」と思った。小さく声を漏らしながら「えっ!うそ~?」と、慌てている。直に見つかったとは思いますがドキッとしましたね。(博子)

蹲に白き雲ある遅日かな 鎌形清司

2021-05-23 03:28:53 | 日記
蹲は、神社や日本庭園などで見かける石の手水鉢。これだけで樹々のある豊な景色が広がる。鳥の声もしていそうだ。その手水鉢に「白い雲」。敢えて「白き」と書き、陽のひかりを強調したのだろう。春の暮れの遅さがひとしお印象深く感じられる。
コロナ禍で友人とワイワイ過ごすことの出ない今。一人で出掛け、「日が長くなったなあ」と独り言のような句。「そうだね」と、私、相槌を打ちましたよ。俳句は、見えないけれど、そんな繋がりを何となく感じて、詠んだり読んだりしているのかも知れませんね。(博子)

啓蟄の雨に取揺の余韻かな 及川源作

2021-05-23 03:22:29 | 日記
まだコートを仕舞うには早い三月初め、冬眠していた生き物が目覚める日として啓蟄はあるがあいにくの雨。雨を見ていた視線が地中に向けられて、それでも一雨ごとに春の陽気になっていくからねと語り掛けながら、作者は優しく降る雨音に雅楽の楽器の一つである箏(そう)の余韻を感じたのだろう。「取揺」は右手で弾いたあと、左手の指でその弦をつまみ、右の方に引き寄せて音を下げる技法だという。啓蟄の雨に筝曲を思う感受の繊細さに感じ入りました。(博子)