「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

見上げたる桜紅葉や暮の鐘 浅野リサ 「滝」1月号<滝集>

2016-01-28 04:06:24 | 日記
 よく見かける光景ですが、この句には、言葉のつむぎ具合
が良いので、さらに鮮明に沁みて来ますね。「見上げたる」
でつい見てしまう桜紅葉、明日には散ってしまいそうだが、
春の桜のときの夢見の時を思い出させてくれる。そんな中、
まだ秋の残っている町に鐘が鳴ってきた。あの鐘の音は上野
か浅草か、そんな人生をしみじみ味わっている姿がみえます。
(赤間 学)

夕星や田中にでんと稲刈機 塗 守 「滝」1月号<滝集>

2016-01-27 04:09:35 | 日記
 実はこの句を選んだのには訳がある。昨年十月初めに近所
の友人が稲刈の最中に心筋梗塞で急逝してしまったからであ
る。長年農業機械の販売会社に勤め、定年退職後は大型機械
を駆使して農業に専念していた友人だった。あまりにも突然
のことで、救急車で運ばれた後にはまさに掲句のように田中
にでんと稲刈機が取り残されていたのであった。ゴルフをは
じめいろいろと交流のあった彼の死は実に残念の一言であり
夕星の中に彼の笑顔が浮かんで来そうな気がする。(鈴木三山)

滝口の寺の悲恋や冬の蝶 豊嶋芳枝 「滝」1月号<滝集>

2016-01-26 04:27:52 | 日記
 芳枝さんはこの頃、歴史を背景にした題材を下敷きに創作
活動をしておられるようですね。
 掲句の「滝口」がいいですね。そこからドラマが生まれま
したね。現代もいいのですが、どちらかと言うと江戸時代の
ひっそり立つ墓の傍に、案内板があり悲恋の筋書きが書かれ
てあったという設定でいいでしょうか。
 季語の「冬の蝶」は1月号の滝俳誌だけでも十句程の売れ
っ子季語ですが、ぴったりですね。(赤間 学)

月光に鑿跡浮かぶ仁王像 後藤外記 「滝」1月号<滝集>

2016-01-25 04:06:16 | 日記
 「鑿跡浮かぶ」により、月光の深い影が見えてくる。その
月光の中に静かに鎮座する仁王像。「仁王像」は四天王像と
違い雨風にさらされる中門、南大門、仁王門、山門などの門
内安置が多いため掲句のように月光に晒された実景をよく見
られますね。掲句は月光と仁王像の対比により当に阿吽の響
きを奏でている。(赤間 学)

秋灯をゆらす運河や裕次郎 八島 敏 「滝」1月号<滝集>

2016-01-24 05:49:10 | 日記
 石原裕次郎が小樽にいたのは三歳から九歳とのことである
が、それが縁で記念館が設立されている。小樽運河は海を埋
め立てて造られた運河である。現在のように観光名所となる
までには紆余曲折があったようであるが、散策路に設けられ
たガス燈はエキゾチックでいい雰囲気を醸し出している。
 作者はきっと裕次郎ファンの一人なのであろう。私の場合
は歴史好きの方で訪れたが、生憎時間の余裕がなく駆け足で
巡ったため裕次郎記念館には立ち寄れなかった。小樽運河食
堂で名物の三色丼を食したのが唯一の記念である。(鈴木三山)