「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

かなかなや円天井のフレスコ画 木下あきら 「滝」10月号<滝集>

2012-10-31 05:15:37 | 日記
 システィーナ礼拝堂の天井画を思ったが、何から、何処か
ら書き始めたらいいのだろう。受け止めきれないほどの沢山
の絵が描かれている。と、言っても実際に見たわけではない。
{ミケランジェロが感じ取り、想像した「人類の始まりと終り
の姿」は、キリスト教の訓えを突き抜け、ギリシァ・ローマ
思想と対峙させたところから描かれている}。と、資料の言葉
を借りることにする。かなかなの澄んだ鳴き声に、身体の奥
の方に荘厳とも言える静寂の世界を感じてフレスコ画を仰ぎ
見ているようだ。(H)

泣いてゐる祭帰りの女かな 谷口加代 「滝」10月号<滝集>

2012-10-30 05:11:47 | 日記
 楽しいはずのお祭りから帰ってきて泣いているという女性。
「祭り」は夏の季語なので、浴衣に結髪のうつむいたうなじ
が見えてきます。作者は「どうしたんだろう」と、心配して
俳句に切り取ったのでしょう。優しい眼差しを思います。物
語を幾重にも想像しながら、仕事と家事に追われて、お祭り
など何年も行ったことのない私の「他人の不幸は蜜の味」的
な嫉み心に気付いてしまった句でもありました。「<忙しい>
と言う字は<心を亡くす>と書く。」とは、誰が言った言葉だっ
たでしょうか。反省です。(H)

梅雨の月よぎる機影や赤ワイン 大友順子 「滝」10月号<滝集>

2012-10-29 05:26:15 | 日記
 レストランでディナーでしょうか。梅雨の夜の思いがけな
い月の美しさが記念日のサプライズのようでステキです。よ
ぎる機影に旅の思い出でを語り始めたお二人かもしれません。
ワインからレストランを思いましたが、白ワインと違って冷
やさずに常温で飲む赤ワインをあえて据えたとしたら、色彩
の美しさと共に温度差のない仲の良い御夫婦が思われますが、
色々に想像できる句だと思いました。小説の書き出しにもな
りそうですね。(H)

泣くやうに散るえごの花療養所 鴨 睦子 「滝」10月号<渓流集>

2012-10-28 06:56:30 | 日記
 体調をくずされたのでしょうか。「泣くやうに散る」とい
う比喩に殊更胸が痛みました。長い柄の先に垂れ下がって咲
く白く可憐な花ゆえに「療養所」の一語が胸にひびきます。
療養中の身でありながら「今、ここ、われ」を一句に切り取
った精神力はさすがですね。修練の賜物の一句です。(田口啓子)

闇を脱ぎ月下美人の花ひらく 平川みどり 「滝」10月号<滝集>

2012-10-27 06:41:09 | 日記
 月下美人そのものを詠み、美しい句。掲句の通り、二時間
あまりかかって闇を脱ぎ純白の大花を咲かせる。その豪華な
姿から「女王花」とも言われるが、朝にはしぼんでしまう儚
い美。
「匂ふとき月下美人として開花  稲畑汀子」
と詠まれるように、その香りも人を魅了する。私は随分前に
一度だけこの花を見たことがあるので詠もうとしたことがあ
るが手に負えなかった。今度は、月下美人に負けないフレー
ズに悩むのではなく、私もその美しさを詠んでみたい。(H)