「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

笹鳴きや色とりどりのゼリー菓子 清野やす 「滝」3月号<瀑声集>

2015-03-28 04:13:11 | 日記
 かつて働いていた事務所は周囲を雑木林が囲み、四季を通
して小動物や小鳥が心身の疲れを癒してくれていた。雪深い
地も2月の終わり頃には、藪の中からチャッチャッと地鳴き
が聞こえ、厳冬の中にも小さな春を感じていた。デパートの
菓子売り場には、甘い香りと、大きなガラス器に一杯に詰ま
ったゼリービーンズが人々の目をひきつけ、心を動かし幸せ
を売っている。両党の私もたまに頂くことがあるが、ゼリー
の歯にくっつく様な食感は、何となく母に接するような微妙
な食感だ。また、蜜豆の中のゼリーは昔の恋人に出会った気
分?で懐かしく擽ったい。掲句の無声音に近い「笹鳴き」と
百花のような「ゼリー菓子」との対比。また、季語と中七の
措辞が合っていてとても良いと思いました。(木下あきら)

鯊雑煮母に詫びたきこと一つ 梅森 翔 「滝」3月号<瀑声集>

2015-03-27 04:22:41 | 日記
 子供の頃から出来の悪かった自分は十指に余る心配事を母
親に掛けて来たように思う。長じては詫びることも孝行をす
ることも出来ないのが世の常ではあるが・・・。しかし作者は、
母に詫びたいことはただの一つだと言う。年の初めに家族揃
って雑煮を頂く幸せをかみしめながら、来し方のさまざまな
事を思い出している。幼少の頃のこと、学生時代、新家庭を
持ち家族を育み、老境に差し掛かった現在に至るまで、いつ
までも心の隅にある一つの事。「母さんごめんなさい」と心
から詫びる一言で総て許していただけると思いますが、作者
に男の本当の優しさを垣間見た感じでいます。(木下あきら)

初笑ひ至るところに青山あ 齋藤伸光 「滝」3月号<滝集>

2015-03-26 04:12:45 | 日記
 「人間至る処青山あり」という。掲句の「至る」は至極の
意。「そこまでいたりつけば、どこでも墳墓の地となる」と
いうことだ。しかし、今や管理社会。病院にあっても然りで
ある。告知に於いて死を宣告されても、死を「管理」される
ことになる。「この世にまだやり残したこと、未練があって
死にたくない」と言っても自然には死なせてはくれないし、
死に場所もない。さて、元日の笑顔は、この一年を穏やかに
過ごす予兆として嬉しくめでたいことだから、元旦に寄席に
でも行って大いに笑い、一日でも長く生きながらえる様に努
めることを勧めたい。お大事にしてください。(木下あきら)

普請場の墨壺ひとつ鳥雲に 芳賀翅子 「滝」3月号<滝集>

2015-03-25 04:13:33 | 日記
 外を歩けばあっちからもこっちからも槌音が聞こえて、建
築現場は活気に満ちている。クレーンに吊り下げられた梁や
組み立てられた間仕切りなど、工場で刻んだものを運びこみ
現場で組み立てれば一丁上がりの積み木の様な此頃の住宅産
業。掲句の普請場では墨壺の糸を張りピシッと墨を打ってい
る。鋸を挽く音、鉋掛けをする音など棟梁と2~3人の職人
が昔ながらの仕事をしている。春の喜びのなか冬との惜別感
もあり、北へ帰る鳥の群れは雲間に消えて心身の張りが失せ
た様な淋しさを感じる。「鳥雲に」が効いた一句と思いまし
た。(木下あきら)

里山に眠る鴉や初暦 佐々木博子 「滝」3月号<滝集>

2015-03-24 04:05:43 | 日記
 「からす なぜ鳴くの からすは山に~」の童謡が聞こえて
きそうな句です。一昔前、鴉は愛情深い鳥として親しみを持た
れていた。それが最近は集積所のごみを漁って散らかし、また
人を攻撃するので迷惑がられ、嫌われてしまっている。それは
人間が自然を破壊し現代的な生活になってきたことが原因な
ので鴉が悪い鳥になった訳ではない。里山に安らかに眠って
いる鴉が一番幸せそうな鴉。作者は新しい暦に動物たちに穏や
かな一年である様に祈っている。数多の命を抱いている里山
の景に自然の尊さを改めて思った。(中井由美子)