「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

考へて右足を出す蟇 齋藤伸光 「滝」8月号<滝集>

2012-08-31 04:44:06 | 日記
 目の前にじっとして動かない蟇を哲学者のような風情だと
感じ、面白がってじっと観察している作者。芭蕉の心境でし
ょうか。やがて意を決したように右足を出した蟇を見て、思
慮深い作者も決心なされたことでもあったのでしょうか。俳
諧味のある句ですね。(中井由美子)

万緑や洗ひ終へたる換気扇 日野紀恵子 「滝」8月号<滝集>

2012-08-30 04:31:17 | 日記
 作者のお住まいは泉ヶ岳も眺望できる自然に囲まれた所と
聞く。お天気に誘われて、換気扇のお掃除を始めた作者。無
心に磨いていると何か心まで洗われたような気分になるもの。
作者も換気扇もすっきりとしたことでしょう。季語の万緑が
作者の満足感を表している。(中井由美子)

昼顔や地球をまはる月の音 佐々木博子 「滝」8月号<滝集>

2012-08-28 05:05:35 | 日記
 見えないものが見え、聞こえない音が聞こえるのが俳人と
いう。正真正銘、俳人の作者が聞いたのは、月の音というの
だからスケールが大きい。揚句、男性的な句と思ったが、昼
顔という季語が静かさを感じさせ不思議な宇宙観を感じる句
となった。そういえば、カトリーヌ・ドヌーブの映画に昼顔
というのがあった。少々、危険なお話という記憶があるが・・。
ということもあり気になる一句となった。(中井由美子)

海底の柱時計や不如帰 赤間白石 「滝」8月号<滝集>

2012-08-27 05:07:20 | 日記
 東北の太平洋沿岸の海底にはまだ震災の瓦礫が沢山沈んで
いる。しかし、瓦礫といっても津波で流されるまでは大事な
生活の道具や宝物だったものだ。海辺に佇み、津波に襲われ
た時間で止まったままの柱時計とその持ち主だった家族に思
いを馳せ、静かに黙祷している作者が目に浮かぶ。夜、密か
に鳴く音を忍び音と言い、別名、恋し鳥ともいう不如帰の季
語が震災の悲しみをますます深くしている。本当の復興はま
だまだ遠いと感じている作者ではないでしょうか。(中井由美子)