「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

ブランコに影奔るとき消ゆるとき  阿部風々子

2019-05-30 02:50:34 | 日記
「影奔るとき消ゆるとき」と、人物の描写はないが影の動きで見せる手法が目の効きと一緒に素晴らしい。影を詠むとは光を詠むことに他ならず、たっぷりとした日差しが明るく降り注ぐ中で勢いよく漕がれているブランコに子供の声までしてきそうです。堪能な句だと思いました。(博子)

寺町に畳屋二軒鳥帰る 遠藤玲子

2019-05-28 04:11:58 | 日記
 城下町に起源をもつ周辺に多くある寺院。暮らし方の洋式化で、畳屋が商売として成り立っているのはこんなところかもしれない。お寺の畳は畳縁に紋縁(もんべり)を使用するそうで、紋が、直線的かつ対照的に調和される事が必要で、当然ながらその割り振られた一枚・一枚の寸法を正確に仕上げなければならない。そんな匠のいる寺町の空を渡り鳥が帰って行く。「二軒」と言う少なさに、繁殖地に帰る鳥に「増える」の前提があるものの苦難の旅。畳屋と渡り鳥の間に淘汰という事も思われる。(博子)

水白粉乾くいとまの初音かな 鈴木要一

2019-05-26 06:42:40 | 日記
水白粉で真っ先思い浮かぶのが、舞妓さんや芸者さん。本当にまだ幼かった頃「大きくなったら何になるの」と訊かれると「舞妓さん」と答えていた私。あでやかな着物と、だらりの帯に憧れていた。掲句は男性が詠まれている。日本舞踊などの舞台化粧だろうかとも思うが、やっばり、舞妓さんか、芸者さんの後ろ頸筋の水白粉を思いたい。格別な美しさを持った初音の句として読ませて頂きました。(博子)


囀や白寿の爪のピンク色 中井由美子

2019-05-24 18:51:56 | 日記
 囀りの聞こえる縁側で爪を切ってあげている作者でしょうか。爪は角質層が変化してできた皮膚の一部。すぐ下には血液が豊富に流れている。そのため、体調によっては血液中のヘモグロビンが酸素や炭酸ガスと結合して色が変わったり、爪の形状が変化することもあって、爪は健康を映し出す鏡だと言われている。ピンク色に、爪に限らず血色の良い健康な99歳を思い。今年8月に100歳になる叔母(父の姉)が思い浮かんだ。(博子)


彼岸西風どこまで続く防潮堤 佐藤憲一

2019-05-22 04:44:32 | 日記
果てが見えないほどの長い防潮堤に作者は何か言いたげだが、十七音に感じた事までは詠み込めなくて、季語「彼岸西風」の「彼岸」の文字に鎮魂の想いを込めたのだろう。あの、東日本大震災の巨大津波を教訓に、国や県の『命を守る』という方針で、防潮堤建設が今も続いている。住民も『同じ目に遭いたくない』という思いで納得してすすめられている工事だと思うが、何か釈然としない気持ちを抱えていた事を気仙沼市魚町地区の防潮堤が22cm 高く施行されていることが発覚したときの住民の怒りに私は知ることとなった。「低いんじゃないから、そんなに怒らなくても」と、思った自分を後で恥ずかしいと思った。「海が見渡せる」という事が防災(命)と同じくらい大事なことだった。「子供でも海が見渡せる高さ」が「大人でも眺望に難儀する」する高さになった。それは故郷の景色を失うことであったのだ。岩手県釜石市にある花露辺(けろべ)という地区は「海が見えなくなって漁師ができるか」と、検討されていた防潮堤との決別を決め、避難道の整備と高台への移転を選んだ。「どこまで続く防潮堤」のフレーズに改めて津波の被害の大きさを思い、海と暮らすという事にことを受け止めた句だった。 ~「滝」は3.11を忘れません~(博子)