「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

牛あまた春のにほひにゆれてゐて 阿部風々子

2021-04-26 04:45:18 | 日記
放牧の牛だろうか。景を広く取ってある。春の陽射しで土が温められ大気の濃度が上がってくる事で、人間の私たちにも感じる事ができる春の匂い。たくさんの植物の芽吹きや開花の匂いを春風が運んでくる。牛がのんびり草を食むあたりに陽炎が立っているのだろうか。確かな写生に囀りも聞こえて来そうな句。(博子)

語り部の高校生や浜防風 佐々木經義

2021-04-25 04:42:16 | 日記
「宮城県気仙沼市の震災遺構となっている高校の旧校舎で、3月11日、地元の中学生や高校生が東日本大震災の教訓を伝える語り部活動を行った」と、テレビが伝えていた。今年で10年となった東日本大震災時の幼さにも恐ろしい記憶が残っているのだろうと考えると胸が詰まる。語り部活動をするにあたって、大人から聞き取りをしたという。辛かったに違いないのだ。それでも「語り部」になってくれたことに敬意を払いたい。震災遺構となった気仙沼向洋高校に、震災の11日後、気仙沼市の中学校で行われた卒業式で答辞を述べた男性の映像も放映され、避難者も大勢いる中で「自然の猛威の前には、人間の力はあまりにも無力で私たちから大切なものを容赦なく奪って行きました。天が与えた試練というには、むごすぎるものでした。しかし、苦境にあっても天を恨まず、運命に耐え、助け合って生きていくことが、これからの私たちの使命です。必ずよき社会人になります」と述べたそうだ。「浜防風」は海岸地帯の砂浜に自生する植物で、根が深くひこばえが長くのびて風による砂の飛散を防ぐとしてこの名があるが、その字面は、震災津波を思わせるのに充分な働きをしていて、だからこそ辛くなり書く手が進まなかった。(博子)


靴墨のチューブをしぼるヒヤシンス 横田みち子

2021-04-22 04:59:01 | 日記
改まった服装で出掛ける明日のために磨く靴だろうか。早春の陽のさす玄関に水栽培のヒヤシンスが咲いて香っている。華やかでボリューミーに直立し、根も美しい。白いヒヤシンスかと、ウエディングドレスが思われた。「大事に育てた」という言葉も思われ、「さまざまなこと思い出すヒヤシンス」でもあるのかと、勝手に思って思考が動かなくなった。幸せそうな靴磨き・・・。(博子)


春北斗太古の海に首長竜 山本峰子

2021-04-20 05:52:14 | 日記
春は、北の位置にはっきりと見える北斗七星。星座ではないが、昔から柄杓の形をしていることで親しまれてきた。北斗七星とこぐま座の間には,丁度こぐま座を囲むようにして暗い星が並だ「りゅう座」がある。りゅう座は長くて曲がった形をしており、首長竜の連想はそんなところから来たのだろう。作者の柔軟な心は太古の海へワープする。天と海、そして時間空間が詠まれて素敵な句。(博子)

惑星の砕けし粒子春の虹 八島 敏

2021-04-18 20:03:06 | 日記
この惑星はリュウグウでしょうね。2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」。1年以上リュウグウを調査し、2度の着陸で岩石を採取した。その後、昨年11月にリュウグウを離れ、1年以上かけて地球へと戻ってきた。その空に淡く大きな虹が掛かっている。宇宙に、またも発って行ったはやぶさに心を繋げる春の虹。見えないところで一生懸命働く存在への眼差しが暖かい。(博子)