「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

あおあおと抜歯のあとの冬の空 遠藤玲子

2021-03-31 04:45:58 | 日記
「あおあおと」「冬の空」と、良く晴れた日。「抜歯」という無くなった歯の存在感が面白い。問題があって抜かれた歯であっても、無くなっては咀嚼に支障が生じるだろうに、清々しささえ感じる。凍てる体感と歯痛を過日に置いての「あとの」だろうか、冬の抜けるような青空が美しい。(博子)

寒月や地に粛粛と殺処分 中井由美子

2021-03-30 19:16:27 | 日記
鳥インフルエンザウイルスが猛威を振るった冬だった。鶏の殺処分は9県で300万羽を超え、過去最悪とのことだ。テレビに夜を徹して行われる埋却処分の様子が映る度、「全羽でなくても・・・」と思う。寒月の影が落ちる地面に埋められてゆく鶏。「粛粛」という言葉に少し救われる。(博子)

冬三日月握れば暖かき血潮 小林邦子

2021-03-30 04:13:18 | 日記
「冬の月」、そのぞくっとする美しさの前では、身じろぎすらできなくなるような気がする。三日月ともなれば、利鎌のようともいわれ、「握れば」と仮定して、血が巡り生きている自身の確認でもあるような詠みだ。寒さが厳しく、凜とした、冷たさを感じる空気感と対比させた「暖かき」でもあるがコロナ禍で生きる「触れない安心」から連想された句ではなかったかとも思った。(博子)

夕映の波ふくらみ来レノンの忌 池添怜子

2021-03-27 06:20:10 | 日記
反戦歌を歌っていたジョン・レノンがピストルで撃たれて亡くなった日は、開戦日と同じ日である。「夕映の波ふくらみ来」に真珠湾攻撃を思わないではいられない。夕映えの色は戦火を思わせ、ふくらむ波は実景でありながら涙でふくらんでいるようでもある。作者の胸の痛みが伝わってくる。(博子)