「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

衣装箱崩れそのまま猫の恋 芳賀翅子 「滝」6月号<滝集>

2011-06-30 20:21:44 | 日記
 私もまだ衣装部屋の片付けは手付かずである。震災後初め
て開催されることになった5月の例会に着ていく物を決めよ
うと、ドアを開けて、あまりのぐちゃぐちゃ加減に片付ける
気が失せた。何とか倒れた箪笥の上を渡って、手を伸ばし洋
服を引っ張り出したのだった。作者も又そんな感じだったの
だろう。恋に興じる猫があっけらかんと配されて面白い。(H)

放牛を呼ぶ声とほしやぶ椿 三浦しん 「滝」6月号<滝集>

2011-06-29 20:43:10 | 日記
福島原発の放射能漏れで避難指示が出て、繋がれたままで
はかわいそうと、飼い主が畜舎から放した牛だろう。野に群
れを成している牛をニュースで見た。でも三月の福島はまだ
寒い。餌になる充分な草があるとは思えない。非難した飼い
主の「何とか生きてくれれば」と願う声は届かない。藪椿の
赤が華やかなだけに、散り敷く頃の椿の様が牛に重なり、何
だかとても辛い句である。(H)

軒端にて施肥の計算つばくらめ 勝見総一郎 「滝」6月号<滝集>

2011-06-28 21:40:20 | 日記
 「燕」を書いたら「軒端」も見えるのではないかと思った
が「施肥の計算」である。施肥は作物を栽培するために必要
な栄養素の中で、土壌中で不足しやすい成分を補給すること
を目的とする。先ずは土の養分を測定し、どの位何を補充す
れば良いのか計算するのだ。計算ソフトがあるくらいだから、
かなり面倒な計算なのだろう。眉を寄せて、電卓を叩いてい
たら、ふと燕の来ていることに気が付いたのだ。「害虫駆除は
頼んだよ」と農事の仲間を歓迎しているようだ。(H)

囀りや池のほとりのレストラン 山本いく子 「滝」6月号<滝集>

2011-06-27 21:22:44 | 日記
 作者は埼玉県和光市の方。行ったことがないので、掲句の
池がどんな池なのかはわからないが、そのほとりにレストラ
ンがある。小鳥たちの求愛をビージーエムに、親しい方とラ
ンチを食べながら、池のある景色を一望にしているのだろう。
陽に光る水面に若葉が映って美しい。震災の句の多い中、掲
句の明るさに救われる思いがした。(H)

家無くも帰る被災地山笑う 中鉢益生 「滝」6月号<滝集>

2011-06-26 21:23:41 | 日記
 地震で家が住める状態ではないのか、大津波で失ったのか
は分からないが、しばらく被害の少ない地に避難していたの
だろう。しかし、安全よりも、安心よりも、暮らしていた街
に帰る過酷を選んだ作者に、春の山が「やっぱり帰ってきた
んだね」と、笑いかけているようだ。この地でなければ、本
当の自分でいられない自分を感じているように思った。私か
らも「お帰りなさい。」(H)