「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

復刻の少年倶楽部小鳥来る 今野紀美子 「滝」12月号<滝集>

2012-12-31 06:30:10 | 日記
「少年倶楽部」は、大正3年に創刊し、敗戦後「少年クラ
ブ」と改名して昭和37年まで、刊行された月刊誌です。とは
言っても、私に兄でもいたら表紙くらい覚えていたのでしょ
うけれど、残念ながら記憶がありません。しかし、小説・詩・
漫画・時事・投稿、付録など、多彩な内容だったらしく、復
刻本は数えるのが面倒なくらいで出ていることから、人気の
程が分かります。作者にも嬉しい一冊が舞い込んだのでしょ
う。倶楽部の漢字表記に見え隠れする戦争ですが、「小鳥来る」
と、秋の寂しさではなく、明るい一面を軽やかに象徴する季
節が配されて、楽しかった子供の頃を纏って、自分の事、家
族の事などを回想する景にひとりごちているのでしょうか。(H)


長靴の児に触れてゆく帰燕かな 加川則雄  「滝」12月号<滝集> 

2012-12-30 05:23:05 | 日記
 一読して頬が緩みました。平明な表現の中に作者の優しい
眼差しが感じられます。長靴に触れていったことに南へ帰る
燕は児に「来年もまた来るよ」と話かけたように思えました。
児の家には空になった燕の巣が残っているのでしょうね。家
の玄関や軒下に巣を作り、身近にいた鳥だけに寂しくなり
ますが、翌年は長靴の児も子燕も成長していることでしょう。
あらゆる地球上の生き物が共生していることが実感として心
に響く作品である。(田口啓子)

火を攻める女の項吾亦紅 菅原 祥 「滝」12月号<滝集>

2012-12-29 06:32:32 | 日記
 自主防災訓練の指導に来られたのでしょうか。女性の消防
士さんのショートカットの項が見えています。『どこを見て
いるのやら』と、おかしくもあったのですが、寂しい印象の
吾亦紅の咲く空地のような所に、この項は効いていますね。
「火を攻める」には、女性のポンプ隊員を思ってもいいのか
もしれません。嘗ては「労働基準法」に、女性が20キロ以
上の重いものを持ったり身につけたりして、継続的に仕事を
することはまかりならんとされていましたが、人の役に立つ
仕事をしたいとの志を持ち、防火服やヘルメットなどの装備
を身に着けての火災現場活動に直接たずさわる女性消防官は
増えているようです。火災跡を思っても、吾亦紅はその赤黒
い色を持って、取り残された寂しさを語るようでもあります
ね。(H)

賢治忌や火星にしるき川の跡 大島てい子 「滝」12月号<滝集>

2012-12-28 06:13:47 | 日記
 賢治忌と火星のベストマッチにわくわくしました。「キュリ
オシティ」が火星で、嘗て川が流れていたことを示す証拠を
発見し、生命が存在した可能性につながる成果として、報道
されていました。「銀河鉄道の夜」の蠍の火は「アンタレス」。
その名は「火星と対をなすもの」という意味をあらわすそう
です。「火星」は地球のように太陽のまわりを回る「惑星」、
「アンタレス」は「恒星」。地球からの距離はまったくちがい
ますが、夜空で見ると、ほぼ同じ明るさの赤い星で、とても
よく似ています。賢治はアンタレスを「ルビーよりも赤くす
きとおり、リチウムよりもうつくしく酔ったようになって、
その火は燃えているのでした。」と書いています。賢治が生
きていたら、地球の古代の河川の跡に似ているとも言われる
「しるき川の跡」に、どんな生命体を想像するのでしょう。
(H)

鬼の子やアルミホイルの落し蓋 及川原作 「滝」12月号<滝集>

2012-12-27 05:30:50 | 日記
 「蓑虫の父よと鳴きて母も無し 高浜虚子」
が思い出されます。煮物をする落し蓋が、木製からアルミホ
イルに変わっても「母」は子のよりどころとして不動の存在
なのでしょう。特に「男性は皆、マザコン」と言ってしまえ
ば、いささか極端な話ですが、限りなくゼロに近いはず。虚
子の句もまた父よりも母恋の感じがするのは私だけでしょう
か。この煮物、きっとお母さんの味がするのでしょうね。日
暮れの早い秋ですから、水戸黄門の主題歌が聞こえてくる、
そんな時間帯でしょうか。 (H)