MOONIE'S TEA ROOM

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『皇太子の窓』

2015年04月29日 | BOOKS
 戦後70年の今年、終戦直後に天皇陛下の英語の先生をしておられたヴァイニング夫人の回想録が文庫版で復刊されました。
 1952年の初版出版当時、国内のみならず海外でも読まれベストセラーになったと、1989年の新装版に記述がありますが、ぜひ終戦直後を知らない世代、さらに若い中学生・高校生にも読んでもらいたい1冊です。
 (写真は1989年出版の単行本の表紙)

『皇太子の窓』
エリザベス・グレイ・ヴァイニング 著
小泉一郎 訳
文春学藝ライブラリー
文藝春秋(2015年04月20日)


 昭和21年からの4年間、今の天皇陛下(当時は皇太子)の英語の教師としてアメリカからやってきたヴァイニング夫人。
 敗戦国としての日本の姿、戦後緊迫している世界の情勢も挟まれますが、表情が見える距離から「人間」としての皇室の暮らしを見つめた貴重な記録になっています。
 ヴァイニング夫人ご本人の来日中の日記とアメリカに住む家族友人にあてた手紙が、この濃密な記録の元となったそうです。
 焼け野原の東京、隙間風のふく学び舎。マッカーサー元帥との会見、東京裁判、共産化する中国、朝鮮戦争の勃発。
家族が離れ離れに暮らす皇室への疑問。
 古都(京都・奈良)への旅行、茶の湯や生け花、香、歌舞伎。宮中の正月・歌会始・ひな祭り・養蚕。クリスマスや誕生日パーティー。
 影の部分も、日向の部分も、きちんと書かれていることが、この本の素晴らしさだと思います。

 「60年以上前に書かれた本……、難しいのでは」と思って読み始めのですが、一人の少年の成長を見守る女性の温かさと、当時も今も国民が簡単に知ることのできない宮中の行事や美しいものの話など、最後まで難しさなど感じずに読み切りました。もちろん、今では使わないような言い回しもあることにはあるのですが、それも美しく感じました。
 もともとは英語で書かれアメリカで出版され、翌年日本で翻訳され出版されたというこの本が、アメリカだけでなく世界で「平和を愛する日本」「平和を愛する皇室」のイメージに大きく貢献してくれたのではないでしょうか。

 英語でのタイトルは「Windows for the Crown Prince」。
 「Crown Prince」は次期王位または次期皇位継承者の第一順位の男子を指す言葉なんだそう。
 新装版(1989年)の「新しい読者へ」というヴァイニング夫人の書いた前文には、「あなたにお願いしたいのは、皇太子殿下のために、今までよりももっと広い世界の見える窓を開いていただきたいということです」という松平子爵(来日当時・宮内庁長官)の言葉が、この本の書名の由来として紹介されています。
 平和を愛し、人を愛し、深く考え、そして誰にでも自分の意見をしっかり伝えることのできるヴァイニング夫人の存在は、皇太子殿下や御学友の皆さまだけでなく、この本を読んだ多くの人にも広く窓を開いてくれたのだと思います。



<追記>
 軽井沢の別荘の記述もあって、東信出身の私にはなじみのある「浅間山の鬼押出し」「小諸の布引観音」「望月の榊祭り」なども出てきて驚きましたし、嬉しかったです。(私が生まれるずいぶん前のことですけれど……)


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