イワン・アサノヴィッチには1歳10ヶ月になる孫がいる。
女の子で、ママが”みー”とか”みーたん”とか呼んでいる。そんな名前である。
ひとみしりが終わり、生後8ヶ月ぐらいになると祖父母の存在も分かるようになった。休みの日、遊びにいったりすると喜んでくれたりする。
それだけのことだが、祖父母にとってはたまらなく嬉しい。帰る段になると泣きべそをかいたりする。そんな顔を見るとなおさら愛おしくなる。
だからイワン・アサノヴィッチはみーがパパと入浴したりしている時にコッソリ帰るように心がけていた。
イワン・アサノヴィッチの妻は保育士である。妻は『段々と分かりかけている子に騙すようにして帰ってしまうことは良くない。その時は辛いけれど、きちんと別れることを教えなくては、却って信頼感が築けなくなる。』と言うのである。
イワン・アサノヴィッチは気が乗らなかったが、次の別れの時に敢えて『みーたん、バイバイ』と言って玄関に向かった。みーの顔は祖父母と別れる悲しみに覆われ、案の定泣き出した。
あれから1年が経ち祖父母と孫は何度もバイバイをして、ようやく今は元気良くバイバイが出来るようになった。
つい先日、嫁の勤務の関係で朝の早い時間から、みーを預かることになった。みんなで朝食を一緒に摂って嫁が慌ただしく職場に向かうとき、イワン・アサノヴィッチに抱っこをされてみーは母親の出勤を見送った。
顔は母親と別れる悲しみに覆われ泣きべそをかいていた。イワン・アサノヴィッチは『ママはお仕事だよ、また帰ってくるよ』となだめたが泣きべそは収まらない。
ママの車はガレージから離れて行こうとしている。
その時、泪目のみーはいきなり大声で『バイバイ!』とママの車に向かって叫んだ。
人はひとと一緒に居て楽しく過ごす時がある、がしかし辛くとも別れなければならない時もある。「人生即別離」「会うは別れの始め」「さよならだけが人生さ」…。
そんな人生の哲理を分かっているかの如きの、みーの潔い泪に深く感動した。