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福田の雑記帖

www.mfukuda.com 徒然日記の抜粋です。

本 「羆嵐」吉村 昭著 新潮社 改訂版 1982

2019年10月17日 15時49分44秒 | 書評
 秋田では毎週のごとくツキノワグマに襲われて怪我したとの記事が報道される。いや、秋田だけでない、新潟や岐阜でも生じている。北海道では、現在でもほぼ毎日のように全道中で目撃情報がある。

 日本で起こったクマによる襲撃事件として、10件ほどの報告がある。
 ・三毛別羆事件、
・石狩沼田幌新事件、
・札幌丘珠事件、
・福岡大学ワンダーフォーゲル同好会羆襲撃事件
、・秋田八幡平クマ牧場事件
、・十和利山熊襲撃事件 など。

 ■ 2016年に秋田県男女計7人が襲われ、4人が死亡、駆除されたクマの胃から頭髪や人体の一部が見つかった。本州の最大の獣害。

 ■ ヒグマによる襲撃事件は1915年(大正4)12月の「三毛別(さんけべつ)ヒグマ事件」が有名。冬眠に失敗した「穴無し」ヒグマが次々と民家を襲い、村人6人を殺し、妊婦を含む女性の遺体のみを食した。体長2.7m、体重は340kgもあった巨大なクマで、胃から人体の一部が見つかった。世界的にも最大の獣害とみなされている。

 この「三毛別ヒグマ事件」は吉村昭著「羆嵐」に詳しい。
 

 今回自炊した私のライブラリーの中に本書を見つけた。いつ購入したものか、記憶から飛んでいた。クマについての勉強を兼ねて改めて読んでみた。

 本書は現実の事件を元に多少の脚色がなされたノンフィクションノベルである。
 1915年(大正4)12月、北海道天塩山麓の六線沢で惨劇は起きた。冬籠りをしそこなった「穴無し」ヒグマが生きるために開拓民家に押し入り、わずか2日間に6人の男女を殺害し人間を喰った。犠牲者の中には妊婦もいた。開拓村を餌場とヒグマは人喰いを続ける。

 犠牲になった村人は開拓民であり、山の真の怖さを知らなかった。たった1頭のヒグマに対しても武器もない人間たちがどれほど弱いものかということを、思い知らされたが遅かった。ヒグマが骨を噛み砕き、肉をむしる音が行間から聞こえてくるような迫真の筆力である。

 後半では、ヒグマ対策を巡って人間たちが迷走する様が描かれる。未曽有の事態を前にして、保身や集団の力に頼る警察等の組織人たちの無能な姿。
 中でただ一人、経験豊かなクマ撃ちの老猟師が、自然の摂理、クマの性格を知り尽くしていた。その恐怖心は尋常でない。老猟師は討伐隊の一行から離れ、単独行動をとる。ヒグマは老猟師によって二発の弾丸で斃されたが、熊を撃ち倒したのちの老猟師の顔色は緊張と恐怖のために死人のように蒼白であったという。
 老猟師は、羆よりも人間たちの愚行に対して怒り、去っていく。

 北海道のヒグマは300Kgを越えるものすらある。その力は強大で、牛馬の頸骨を一撃でたたき折り内臓、骨まで食いつくす。人間も餌にすぎない。

 何故、極寒で未開の地である北海道の大地を開拓しなければならなかったのか。故郷を捨てて移住せざるを得なかった方々の苦労が詳細に語られる。
 その当時、満足な通信手段もなく、食料も寒さを凌ぐ家屋もない貧しい村落。当時の開拓民の生活様式,警察官の階級制、ヒグマの習性などが詳細に記述され,臨場感を高めている。

 日本の歴史上最大の獣害事件を詳細に取材し克明に小説化してある。貴重な歴史の記録である。

 類書
■ 木村盛武 慟哭のもり 文春文庫 2015年 所持しているが未読。
■ 熊谷達也著 ウエンカムイの牙 集英社文庫 2008 既読
  書評 ウエンカムイの牙 熊谷達也著 集英社文庫 2008

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