延命治療には、輸液や栄養投与が含まれる。
本人が希望する終末期ケアについてはは、事前に書面で意思表示をしておくのがいい(事前指示書)、と・・とされるが全然普及していない。「食事や水分を十分摂取できなくなった時は、自然な看取りをしてください」といった記載をしておけば、病院や施設が中心静脈栄養や経鼻栄養などの延命を目的とした栄養補給を行う必要もなくなる。
厚労省『平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査結果』によれば、「人生の最終段階における医療について家族と話し合いをしたことがある割合」は42.2%、実際に「事前指示書」を作成している人は3.2%にとどまる。私が診ている患者の場合は前者も後者もほぼゼロである。
厚生労働省が2014年にまとめた『人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書』は、疾病別の延命治療の希望割合を示しているが、患者の希望が最も少ないのが胃ろうであった。
末期がんでは、意識や判断力が正常な場合、点滴希望61.1%、中心静脈栄養18.8%、経鼻栄養12.7%、人工呼吸器11.1%、胃ろう7.9%だった。
認知症末期で衰弱が進んだ場合、点滴希望は46.8%、中心静脈栄養13.6%、経鼻栄養は10.1%、人工呼吸器は8.7%、胃ろう5.8%だった。
胃ろうは2000年以降、急速に普及し、全国の胃ろう造設者数は約26万人と推計される(全日本病院協会)。
病院や介護福祉施設における胃ろう造設者の割合は、急性期病院が7.2%、慢性期病院が29.6%、ケアミックス病院が21.1%、介護老人福祉施設が9%、介護老人保健施設が7%、介護療養型老人保健施設が28%と極めて多い。
胃ろう造設には大きな延命効果があり、造設者の平均的余命は約3年と言われている。しかし、胃ろう造設患者は、ほとんどの場合、膀胱留置カテーテル、おむつをつけ寝たきり状態で余生を過ごすことになる。胃ろう造設者の9割は寝たきり状態にあり、胃ろうは本人の意思よりも医療関係者の看護や介護の都合で造設されている可能性ある。
よく言われるQOL(生活の質 Quality of Life)には、「いのち」「生活」「人生」という意味がある。「人生」とは、「誕生」から「死」までの期間である。QOLは、本人の人生経験に本人が決めるものであって他人が決めるものではない。だからこそ、「自分の終末期ケアのあり方を自分で決めること」は当たり前である。
現在、多くの高齢者が希望しない延命治療を受けている。その背景には、日本人特有の「死について語らない・・・」ことと関係がある。その結果、社会に対する甘えが当たり前となり、社会保障費が増える要因にもなっている。
高齢者は突然高齢になるわけではない。生涯を通して死生観の育成が必要であり、終末期を過ごす場所を、医療機関に限らず、介護施設や高齢者住宅に広げていく施策も必要である。