福田の雑記帖

www.mfukuda.com 徒然日記の抜粋です。

本;大谷 崇著「生まれてきたことが苦しいあなたに」(1) 星海社新書 2019/12 待ちかねた本

2020年03月24日 20時14分38秒 | 書評
 上記の書籍を入手した。
 副題として ——最強のペシミスト・シオランの思想——とある。

 E M シオラン(Emil Mihai Cioran1911-95年)は、ルーマニアの思想家で、鬱、不眠など、生涯にわたる精神的苦悩をもとに特異なニヒリズム的思索を展開した思想家の一人である。
 ブカレスト大学に学び、ニーチェ、パスカルなどを勉強し大きな影響を受けた。

 ルーマニアのファシズム運動にも関わり、機関誌に多くの政治論文を寄せている。シオランは暴力的手法には賛同してはいなかった。彼は後に、この運動に対する共感を捨て去り、それに傾倒した民族主義、反ユダヤ主義などの若年期の態度に対して、深い後悔、良心の呵責の念を表した。この自責の念が後の作品を特徴付ける悲観主義の源となったと見る者もいる。

 また、その悲観主義は彼の幼年期の出来事にも由来すると見る者もいる。
 母親に「もし今のあなたの人生を予測できていたら、私は産まずに堕胎していたでしょう」と言われた。この言葉は、人間存在の本性についての洞察を導く契機となった。
 彼は、母の言葉を受けた結果か、「私の存在はたまたまの偶然の結果に過ぎない。なぜそんなに全てを深刻にとらえるのか?」、「全てのものに実体などないのだ」と、発言し生涯虚無的姿勢を貫いた。
 代表的著作に1934年 「絶望のきわみで」、1936年「欺瞞の書」など多数あるが、読むのが困難で、この大高氏の書を手に入れるまでシオランの著作に直接は触れたことはない。存在は知っていても高嶺の花だった、ということ。
 今回、星海社新書として大高氏の著作による本書が出版されたのは私にとっても大きな喜びであり現在愛読中である。

 私は悲観論者である。
 私は65歳の現役引退を迎えるまでがむしゃらに生きてきた。その頃は降りかかる懸案事項をクリアしていくのに必死で、その結果、ある程度の評価を獲て、もちろんの運の良さに助けられてではあるが、陽がアタル立場を多数経験してきた。
 実際には還暦を迎える時期に、「本来の自分でない生き方をしている。嘘も随分ついている。自分の人生はこれでいいのか??」と疑問を感じ、道を変えようかと思ったが、その機会を逃して65歳まで組織の一員として過ごしてしまった。退職を待ちかねていた。

 私は自分の人生の足跡など、無に等しい、いや、負に等しいと思っているが、一つだけは評価している。
 良き伴侶を得て、子供を3人、曲がりなりに育てあげたこと、である。

 他の私の足跡は今となってみれば、誰にでも取って代われるようなどうでもいい些細なことばかりである。だから思い出すのも嫌だ。
 それ以上に、ここに至るまで、私が直接意図していなかったとしても、多くの他人を傷つけてきたのではないか、と忸怩たる気持ちになっている。

 だから、私は現役引退後は最小限の診療だけにして、人との付き合いを断ち、社会的活動を一切していない。透明人間のごとくに誰にも影響を与えずに静かに生きている。

こんな私に取って、悲観論者シオランの思想を紹介する書籍が出版されたことは大きな喜びである。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 茜色の夜明け | トップ | 本;大谷 崇著 「生まれ... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
福田先生が選択された職業が「医師」であったからこそ… (原左都子)
2020-04-02 11:09:03
それを一生に渡り継続する運命下にあられたものと想像致します。
何だかんだ綺麗事を言ったところで、どうしても世には“階級”が存在します。 人の職業として“最高峰”と一般人より羨望されている「医師」を選択された福田先生は、恵まれた存在でもあられた事でしょう。
私事で恐縮ですが、私は自分自身の内面から強く湧き出る意思の下に、今までの人生に於いて2度大きく方向転換をしました。
一度目は郷里も親も捨てて単身上京したこと。 そして二度目は医学の仕事を一旦中断して、新たな学問にチャレンジしたことです。 何故そんな事が叶ったのかと言えば、福田先生のごとく“人も羨む”立場にいなかった(要するに、比較的簡単にギアチェンジが出来た)のが大きな理由だったと振り返ります。 この“2大決断”こそが、現在の私の自信を支えていると言っても過言ではありません。 
これらの経験が無ければ、失礼もものともせず「医師・福田先生の雑記帖」にのこのことコメントを書かせて頂くこともなかったことでしょう。
世間よりの「評価・羨望」の裏側で苦難も乗り越えられつつ「医師」の職業を全うされている福田先生は、やはり素敵な方です。
そして私はこれからも、そんな心のひだを語って下さる福田先生のファンであることに、間違いありません。

返信する

コメントを投稿

書評」カテゴリの最新記事